LECTURE

食品包装基礎講座

包装フイルムのトラブル(輸送・保管・使用編)

 
はじめに   今までに包装フイルムの加工時および包装機械による包装作業時のトラブルについて述べてきたが、ここでは包装品の輸送時や保管時、消費者が開封あるいは消費する時点において発生する可能性があるトラブルやチェックポイントをまとめた。消費者から包装を意識されない包装、つまり、何の疑問もなく包装を解いて内容品を取り出し利用または消費できる包装こそが、技術面における包装の責務と考えられる。小さなトラブルにも問題意識を持って対処しなければならない。

輸送中に発生するとトラブル ・輸送中にピンホールが発生する   包装品の折れ曲がった先端が段ボールとこすれた場合、たちまちピンホールが生じる。段ボールの表面はヤスリと同様であることを認識しなければならない。プラスチックフイルムは手で引っぱっても破れないほどに強度はあるが、硬い粗面に対する擦れにはひとたまりもないほどに弱い。輸送中に発生するピンホールのほとんどが段ボールによる擦れである。
   防止対策としては、
①擦れに強いフイルムを使用する.例えばPET/ON/LLDPEなど.
②段ボール側面と接触しないように工夫する.例えば袋と段ボールの間にフイルム、クッションなどを挟む.
③袋の平たん部に折り目ができないようにする.例えばガゼット袋の折り目をシールし、4本柱シールにする.
などがある。

・輸送中に破袋しやすい    プラスチックフイルムの種類は多く、性質も多様である。一般的な引張強度はあるが、耐衝撃性には劣るものもある。ベースフイルムとシーラントの組み合わせで、耐衝撃性について次表にまとめた。
 

表1.各種フイルムの耐衝撃性比較
  LLDPE 一般コポリCPP
PET系フイルム ×
ON系フイルム
OPP系フイルム
△~×
◎:優秀 ○:良い △:条件によって使用可 ×:悪い

 
  上表で、×または△の構成は液体包装には適さない。◎印のON/LLDPEは最も耐衝撃性に優れたラミネートフイルムで、衝撃による破袋は皆無といってもよい。ただし、前述の段ボール壁面との擦れではたちまちピンホールが発生する。フイルムの性能をよく理解して包装設計をすることが必要である。なお、袋の耐衝撃性を評価するには段ボール単位で落下テストすれば差がでやすい。
  CPPには耐衝撃性を向上させたものもあり、一般のCPPに比べてかなり改善されているが、それでもPEには及ばない。

・耐寒性不足による破袋が生ずる    耐寒性についてもPE系に比べてCPPはかなり劣る。OPP/CPPで破袋の問題が生じたときは、例年の冬に比べて平均気温が低いという年に多い。また、北海道などの寒冷地での破袋事故も多くなる。
   フイルム別ではON、PET、PE系シーラントなどは急速冷凍(約-40℃)でも問題なく使用できるくらい耐寒性には優れている。OPPやCPPはマイナス20℃より低温になると急に脆くなるので注意が必要である。普通セロハンや防湿セロハンも低温では脆くなる。

・シーラントの耐熱性不足    輸送中に高熱がかかることはほとんどないが、トラック便のエンジンからの熱や夏場の直射日光などでフイルムが変形したり、内面がブロッキングしないように注意する必要がある。
  船便による輸出品では、赤道直下の船倉は80℃くらいに温度上昇することがあり湿度も高いので、適切な材質設計が必要となる。

保管中、陳列中に発生するトラブル ・害虫が侵入する   プラスチックフイルムの包装では害虫の侵入に無防備である。物理的な強度には問題がないPETやON構成のフイルムでも害虫に関しては弱い。マダラメイガなどの幼虫は折り目があれば簡単にフイルムを食い破って侵入する。特に内容物が穀物類、豆類は要注意である。

<袋の形状による害虫抵抗性> 三方シール袋--------------------折り目がない 合掌袋--------------------------×両サイドに折り目がある ガゼット袋-----------------------××折り目が多い

     害虫被害は内容品から漏れてくる臭いに寄せられて、袋を食い破って被害を与えるもの、包装前の商品に卵を産み付け、包装後に幼成虫になる場合など、発生形態にはいろいろある。作業環境を清潔にする、内容物の臭気を外に出さない、硬いフイルムで折り目をつくらない、乾燥状態を保つ、脱酸素剤を封入するなど、状況に応じた対策が必要になる。

・吸湿する 倉庫などに保管中、包装された商品が吸湿するという問題が発生することがある。空調された倉庫なら高湿度になることはないと思うが、空調のない夏場の倉庫では40℃、90%RHという高温高湿になることもある。このような条件を想定した包装設計がなされていなければ吸湿問題が発生することになる。百貨店やスーパーなどの店内も夏場の夜間はかなりの高温高湿になるので油断できない。一般的な夏場の条件(30℃、80%RH)で、賞味期限の1.5~2倍くらいの商品寿命を設計しておきたい。
 

表2.各種フイルムの防湿性
フイルム 防湿性評価(一般的な透湿度)
防湿セロハン × 悪い(40g/㎡・day)
OPP 良い(7)
PET ×~△ 悪い(50)
ON × 悪い(260)
Kコートフイルム 良い(5-10)
LDPE 普通(厚みによる)
CPP30μ △~○ やや良い(12)
透明蒸着PET 非常によい(1-2)
AL複合フイルム 完全防湿に近い
蒸着PET 非常によい(1)

 
・酸化する    食品成分で酸化しやすいものとして油脂、ビタミン類、色素、香気成分などがある。ビタミン類の酸化は栄養成分の低下、色素類では退色・変色、香気成分では風味の劣化を生ずるが、健康上の問題が発生するのは油脂成分の酸化である。 食品衛生法では即席麺や油菓子において酸価(AV)と過酸化物価(POV)を数値で規制している。
  油の酸価は空気中の酸素、光線によって生じる。したがって、酸素遮断性の良いフイルムを使用し、ガス充填、脱酸素剤封入などの対策が必要である。直射日光はもちろんのこと、店頭陳列中の蛍光灯の光でも酸化は進行する。

 

表3.各種フイルムの酸素ガス透過度
フイルム 酸素ガス遮断性評価
防湿セロハン ×× 悪い
OPP × 悪い
PET ×~△ 悪い
ON × 悪い
Kコートフイルム 良い
LDPE ××× 非常に悪い
CPP30μ ××× 非常に悪い
透明蒸着PET 非常によい
AL複合フイルム 非常によい
蒸着PET 非常によい

 
・異臭が吸着した    完全には比例しないが、ガス透過性の大きいフイルムほど香気透過性も大きい傾向にある。しかし、PETのように酸素ガス遮断性は良くないが、香気保存性は非常に優れているフイルムもある。また、OPPフイルムのように、一般には香気保存性は良くないが、紅茶の香気遮断には優れているという特別な場合もある。
   PEやCPPは香気を通しやすく、外部からも異臭を吸着させる。保管倉庫で他の香気(臭気)を吸着したり、家庭でも化粧品や灯油の臭いがついた、冷蔵庫の中に保管したら臭くなったなどのクレームを受けることもある。
   香気が大切な商品では香気保存性に優れたフイルムを選択すべきである。香気保存性に優れたフイルムは多くあるので、困難な設計ではない。

 

表4.各種フイルムの香気保存性評価
フイルム 香気保存性評価
防湿セロハン × 悪い
OPP ×~△ 悪い
PET 良い
ON × 悪い
Kコートフイルム 良い
LDPE × 悪い
CPP30μ × 悪い
透明蒸着PET 非常によい
AL複合フイルム 非常によい
蒸着PET 非常によい

 
・変色する 一般に色素を含んでいる食品が劣化すると退色または変色する。色素が空気中の酸素または光によって酸化や分解するからである。しょうゆは光よりも酸素によって褐変する。おぼろこんぶの緑色は光によって退色し、酸素の影響は小さい。抹茶のグリーンも水分と光があるとたちまち退色する。天然色素には光に弱いものが多くある。
  変退色を防止するには酸素の除去と遮光が最も効果がある。したがって、脱酸素剤の使用やガス充填包装をするとともに、アルミ箔やアルミ蒸着フイルムで遮光包装すればほとんどの変退色を防止できる。印刷で光の影響を少なくするには赤系統のベタ印刷で効果が大きい。これらは油の酸化防止にも共通する。

消費者が使用する時に発生するトラブル ・手で開封できない    最近の包装食品は、バリアフリー包装(JIS--0021)と呼ばれ、ナイフやハサミを使用しなくても開封でき、高齢者や障害者にも優しい包装が増えた。
   OPP、PET、ONなどのラミネートフイルムによる袋は、端部を手では引き破れないので、素手での開封は難しい。一般にはVカットの切り目を入れたり、波形カット刃を使用したりするが、方向性フイルムやイージーピール用フイルムを使用したり、シール部分や折り目に特別な工夫をすることもある。しかし、特殊な構成や装置を用いてイージーピールにすると包装コストがアップすることになるので、必要のない機能までは付与することなく、ハサミやナイフを用いて開封してくださいという大きな表示をすればよいという考え方もある。

・袋をきれいに開封できない    一般的な二軸延伸フイルムは、たてにもよこにも切れるので、真っ直ぐに開封するのはむつかしい。切れ目が斜めに走ってしまうと内容物がこぼれることになる。特に内容物が液体では衣服を汚してしまうというクレームが発生する。レトルトパウチのように加熱してから開封する商品は熱い状態での開封性が良好でなければならない。
   PEやCPPの単体ではフイルムが伸びてしまって開封できないことが多い。
   ハサミやカッターで開封するように表示する、手で開封する場合は方法を図解するなどの対策が必要である。

・イージーピールのカップをきれいに開封できない    イージーピールフイルムにもいろいろ種類がある。選択を間違えると必ずトラブルになる。下表に、多くの種類をそろえているトーセロのCMPSの品種を示した。実際の構成フイルムで充填シールテストを実施することが必要である。
 

表5.代表的なCMPSの種類
種類 対象カップ 用途の一例 剥離・特徴
006 PP,(PS) 菓子 界面 ソフトピール
007 PP,(PS) ポーションゼリー 界面
008C PP,(PS) ヨーグルト、プリン 界面
009 PP,PS,PVC トコロテン、納豆 界面 PP以外も可
011C PP,(PS) ゼリー、サンドイッチ 界面 007の改良品
013C PP,(PE) 豆腐、茶碗蒸し 凝集
016C PP,PE,AL,
(PET,ガラス)
ゼリー、座薬 凝集 プラスチック以外も可
017C PP,(PE) ゼリー、豆腐 凝集 013Cの改良
018C PE スライスハム、ベーコン 凝集 軽剥離

 
・スタンドパックがうまく立たない    スタンドパック(自立袋)は陳列時や消費者が開封した後も立っていることに便利性がある。それが倒れてしまっては値打ちがないばかりか、液体食品では内容品がこぼれてクレームになる。
    底がきれいに開いていれば立たないということはないが、フイルムに腰がない、本体と底フイルムの腰のバランスが悪い、寸法が不適切であるなどの原因で自立性が不安定になる場合がある。実際のフイルム構成で実寸サンプルを作り、内容品を充填して構成と寸法を決めた方が失敗は少ない。

・落としただけで破袋する    液体・粉体などの食品で、消費者が手から落としただけで破袋したのでは大きなクレームになる。落袋衝撃強度はかなり安全度をみて設計しなければならない。ON/LLDPEであれば安心できるが、PET/CPPの液体包装では30cmの高さでも破袋することがある。OPP/CPPなどのPP系は-20℃以下では脆くなる。PE系は耐衝撃性に優れるがCPPは脆い。この基本的な性能は包装設計の段階で理解しておく必要がある。

・異物混入による消費者クレーム    樹脂片などフイルムからの異物混入もまれにはあるが、食品からの異物混入も多い。大きな問題になるのは、人に危害を与えやすい金属片である。この検出には金属探知器を用いる。最近ではX線による異物検査装置が普及しつつあり、金属以外の石、ガラスなども検出できる。

・電子レンジやボイル処理で破袋する    電子レンジでの加熱は、開封するか穴をあけて処理するように表示しなければ事故につながる。最近は穴をあけなくてもよい電子レンジ対応の包装もあるが、これでも消費者に対して図解による説明が要る。レトルトカレーなどのように消費者が熱水で加熱して食する食品は、加熱状態で落下させても破袋しないように設計する必要がある。アルミ複合ならPET/AL/耐熱CPP、透明タイプならON/耐熱CPP、大袋ならPET/ON/耐熱CPPなどが多い。