LECTURE

食品包装基礎講座

食品無菌包装の基礎知識

 
はじめに    生ハム、生ゼリー、生ビール、ロングライフ牛乳、果汁飲料、コーヒーフレッシュなど、包装後の加熱殺菌をしていない、新鮮さを売りものにした食品が数多く見かけられる。包装後に加熱殺菌をしなければ数日も持たない食品ばかりである。風味を損なわないという高温短時間(HTST)のレトルトパウチとも違う、これらの食品はどんな方法で製造されているのだろうか。以下、無菌包装の基礎知識について説明する。

無菌包装(aseptic packaging)とは 水分の多い食品はカビ、酵母、細菌などの微生物の異常な増殖によって腐敗変敗する。真空包装後の加熱殺菌は加熱によって微生物を死滅させ、腐敗を防止することが目的である。つまり、微生物がいなければ保存性が向上する。しかし、多くの食品は加熱によって風味、テクスチュア、栄養価の低下や、変色などが生じるため、なるべく加熱は避けたい。そこで考えられたのが無菌包装である。
   無菌包装とは濾過、洗浄による除菌殺菌、UHT(Ultra Higth Temparature 超高温)殺菌などによりあらかじめ無菌状態にした食品を、無菌化した包装材料を使用し、無菌の環境で包装することである。無菌包装の基本工程を図1に示した。ここでいう無菌とは、完全無菌状態ではなく、商業的な無菌を意味し、必要な期間微生物による腐敗変敗を防止することを目的としている。常温でも長期保存が可能な無菌状態で包装することを無菌包装(aseptic packaging)、これよりやや基準がゆるく、包装後の殺菌工程なしに、冷蔵等、他の保存方法と併用することによって必要な期間商品寿命が維持できる包装を無菌化包装(semi-aseptic packaging)と呼ぶことが多い。

             包装材料→殺菌
                               ↓
食  品→殺菌→無菌状態で包装→出荷
 

 
図1.無菌包装の基本工程   
 
無菌包装をすることによる最大のメリットは、包装後の加熱処理に比べて、食品本来の香気、味覚、色を大きく変化させることなく、できたての風味を包装することができることである。また、加熱殺菌ができない食品のシェルフライフ延長にも欠かせない手法で、計画生産を可能にする、配送頻度を減少できる、などのメリットがある。一方、デメリットとしてはイニシャルコストが非常に高くなる、菌に汚染されたときのシステム全体の殺菌に時間がかかり、すぐに復旧ができない、製品のロスが多いなどである。  
 
無菌包装に必要な設備   
無菌包装に欠かせない設備には、クリーンルーム、食品の無菌化のための殺菌・除菌設備、包装材料の無菌化のための設備、無菌包装機などがある。また、作業者や設備の無菌状態を維持するための標準作業手順の作成・整備・実行が欠かせない。

①無菌作業室(クリーンルーム)
   クリーンルームとは、空気中の浮遊塵埃が一定の基準に制御されている空間のことで、温湿度や気流も制御対象になる。
  ある空間を密封し、フィルターを通した無菌状態の空気を送り込み、部屋を陽圧に保つことによって、外部からの塵埃や微生物は入れない状態になっている。
  クリーンルームには、半導体などの精密部品製造のための、主として塵埃を対象とした工業用クリーンルーム(ICR:Industrial Clean Room)と、食品の生物粒子を規制するバイオクリーンルーム(BCR:Biological Clean Room)に区分される。
  クリーンルームの清浄度は1立法フィート中に0.5ミクロン以上の微粒子が何個あるかで表される。たとえば1ft3中の0.5ミクロン以上の大きさの粒子が100個あるとすれば、「クラス100」の清浄度であるという。JISでも1m単位の清浄度で制定されている(JIS-B-9920)。
  技術的にはクラス10程度の清浄度のクリーンルームの実現も可能であるが、食品無菌包装の場合は、「クラス1,000」から「クラス10,000」の設定が多い。参考までに、無菌手術室、ICやLSIの製造室では「クラス100」、都会の一般的な事務所では0.5μ以上の塵埃数がおよそ1,000,000個/ft3といわれている。
  すべての工程を無菌化するのは負担が大きいので、二次汚染防止に必要な部分だけクリーンゾーンにする方法がよく行われる。
  代表的なクリーンルームの構造と簡易タイプのクリーンブースを図2、写真1に示した。


図2.クリーンルーム            

写真1.クリーンブース
 
 クリーンブースはビニールシートで空間を覆い、中にフィルターを通した無菌空気を送り込み、陽圧にして外部からの汚染を防止するようになっている。主として包装工程の簡易的な無菌化に利用される。  
 
②無菌食品製造のための殺菌・除菌設備
   液状食品の場合はUHT(超高温短時間殺菌装置)の間接加熱法プレート式採用が多く、食品の風味を損なうことなく殺菌できる。135~150℃、2~6秒くらいが一般的である。一般加熱に耐える液状食品では85℃付近のホット充填も実施されている。
   固形食品では調理時の加熱によって殺菌できたものをそのまま無菌室で包装すればよいが、原材料の選別・殺菌、できあがったものを別工程で洗浄・殺菌するなどの併用が必要とされる。

③包装材料を殺菌するための設備(外部で実施することもある)
   包装材料の無菌化は、無菌包装機では、カップ、成型用シート、フタ材などを包装直前に熱過酸化水素で実施することが多い。UV(紫外線)照射、その他の装置を単独で、あるいは、併用することもある。別工程で殺菌する場合はUVや電子線による殺菌も行われる。

④無菌包装機
  一般の包装機を使用する場合はクリーンルームに設置し、殺菌した包装材を使用するが、フォーム・フィル・シール方式の包装機では包装材の無菌化装置が一体となっている。国産包装機メーカーではCKD㈱が多くの実績をもつ。包装材の殺菌では、③で述べたように、熱過酸化水素を使用する例が多い。CKDの機械に限らず、一般的な工程と包装機の例を図3、4、写真2に示した。


 
各種食品の無菌包装例
   液状食品と固形食品の無菌包装方法は自ずと異なってくる。液状食品の場合は濾過やUHT殺菌装置と無菌包装機により、常温流通できるくらいの無菌状態にすることが可能なものも多い。固形食品の場合は二次汚染の可能性があり、冷蔵、脱酸素剤、ガス充填などとの併用による実施例が多い。

<液体・粘体の無菌、無菌化包装食品例>
   ロングライフ牛乳、乳飲料、果汁飲料、ケチャップ、フルーツゼリー、カスタードプリン、ポーションコーヒーミルク、ポーションレモン、ヨーグルト、お茶、めんつゆ、ミネラルウオーター、清涼飲料など

<固形物の無菌化包装食品例>
   野菜、魚、米飯、包装餅、スライスハム、ソーセージ、総菜、スライスチーズなどで実施されている。
   図5に無菌化包装米飯の製造工程を示した。
  成型用シートの殺菌(熱過酸化水素)→成型→充填→ フタ材の殺菌→熱シール(密封)→トリミング→製品

図3.無菌包装機の工程

 

写真2 .CKD㈱フォームフィルシール無菌包装機  
 

図4.フォームフィルシール無菌包装機の構造例

右サイドが成型用巻取で、熱過酸化水素で殺菌→
加熱・成型・無菌化された食品を充填→

フタ材の巻取を殺菌後熱シール→トリミング
 
精米→洗米浸漬→水切り→計量→充填→炊飯 →充填→包装→放冷→箱詰→製品 図5.無菌化包装米飯の製造工程 計量から包装までがクリーンゾーンで実施される   無菌包装に使用される包装材料 安全性、無味無臭、食品衛生上問題がないこと、殺菌剤などの薬剤や電子線・放射線に耐性があること、殺菌温度以上の耐熱性があること、成形性・密封性などの包装機適性があること、印刷性・透明性・イージーピール性などの商品性も持っていることなどが要求される。以下、各用途の材質例を列挙する(塩素系を除く)。
 
・カートン
PE/紙/PE/透明蒸着PET/PE
PE/紙/PE/AL/PEなど

 
・成形容器
PS系
PP
APET
PP/EVOH/PPなど

 
・容器のフタ材
PET/透明蒸着PET/イージーピール
PET/EVOH/イージーピール
PET/AL/イージーピール
AL/ホットメルト
紙/AL/ホットメルトなど

 
・深絞り包装絞り材
Ny/PE
CN/EVOH/CPPなど

 
・袋、フイルム
バリヤー性ON/LLDPE
PET/透明蒸着PET/LLDPEなど