LECTURE

食品包装基礎講座

乾燥剤の種類と性能

 
乾燥剤の役割と食品包装用としての必要条件
乾燥剤の種類と性能
○シリカゲル
○生石灰
○塩化カルシウム加工品
○シリカアルミナゲル
○シート状乾燥剤
食品と乾燥剤
乾燥剤の使用量計算方法
 

 
   水分の少ない食品を裸のままで放置しておくと、だんだん吸湿し、固結、硬化、潮解、変色などが生じ、その食品本来の風味がなくなってしまう。そこで、このような吸湿しやすい食品を保存するとき防湿包装が必要となる。缶詰やびん詰めでは、密封さえできれば完全防湿包装が可能であるが、プラスチックフィルムの場合、熱シールにより密封は比較的用意にできても、フィルム自身が多少なりとも湿気を通すので、密封性だけに頼ることができない。そこで、袋内に乾燥剤を同封することによってフィルムの防湿性不足を補い、吸湿による商品価値の低下を防止しようとする方法が古くから行なわれている。

(乾燥剤の役割と食品包装用としての必要条件)
 乾燥剤の役割は、食品の水分を一定に保ち、商品価値を必要な期間維持することにあるが、その吸湿過程をわけてみると、つぎの3つになる。
①----外部からフィルムを透過してくる湿気を取り除くこと。
②----包装系内の水分、例えば袋内空気中の水分、ひねりセロハン・台紙・仕切り板紙等の水分を取り除くこと。
③----食品中の水分を取り除くこと。
一般には①の目的で使用されるが、内容空気量が非常に多い包装形態、セロハン・紙によるひねり包装品、みやげ品のように紙製のラベルや仕切り板をふんだんに使った商品等においては②も重要な働きになる。また③はインパッケジデシケーション(IPD)といい、製造してから包装するまでに、食品が限界以上に扱った水分を、包装後袋内で乾燥剤がとってしまい、商品価値を復活させる方法である。
 つぎに、乾燥剤が食品包装用として使用できるための条件を列挙する。
(1) 人体に無毒・無害であること。または十分に危険を防止しうるものであること。  
(2) 化学的に不活性であること。食品成分と反応したり、臭気が発生しないものであること。
(3) 取扱いやすいこと。つまり、潮解性、吸湿による発熱がないこと。
(4) 吸湿によって破砕、粉化、ガス発生、体積増大がなく、機械的強度があること。
(5) 吸湿力が大きいこと(乾燥空気中の水蒸気圧が低いこと)
(6) 吸湿速度が大きいこと(高活性であること)。
(7) 吸湿能力(吸水容量)が大きいこと。
(8) 温度・湿度の広範囲で乾燥能力を有すること。
(9) 吸湿の低下がよくわかるものであること。
(10) 簡単に乾燥力を復元できるものであること。
(11) 安価であること。
 これらの条件をすべて満たせば理想的な乾燥剤であるといえる。

(乾燥剤の種類と性能)
 食品包装用として使用されている乾燥剤は、シリカゲル、生石灰、塩化カルシウム加工品、シリカアルミナゲルの4種類でほとんどを占めている。このほか、硫酸、五酸化リン、水酸化ナトリウム、酸化バリウム、炭酸カリウム、脱水硫酸銅、金属ナトリウム等々種類は多いが、これらは乾燥力が大きくとも取扱い上危険が大きかったり、衛生上問題があったりして、実験用・試験用としては使用できても、食品包装用には使えない。それは前述の必要条件で、致命的な欠陥があるためである。
  <各種乾燥剤の吸湿力比較>
乾燥剤 空気1リットル中に残る水分
五酸化リン <0.0002  (mg)
シリカゲル 0.003
濃硫酸 0.003
95%硫酸 0.3
水酸化ナトリウム 0.16
生石灰 0.2
塩化ナトリウム 0.14~0.25

○シリカゲル
 シリカゲル(Silicagel)はコロイド状ケイ酸のことである。表面積が非常に大きく、吸着現象により水分を吸収する。A形とB形があり、JIS-Z-0701により、その品質が規定されている。乾燥剤の中でJIS規格が定められているのはシリカゲルだけである。A形は低湿度における吸水容量が大きく、B形は高湿度における吸水容量が大きくなっている。食品用として主に使用されているのはA形である。B形は工業機械や部品の包装に使用される。
 シリカゲルは安全性が高く、湿気を吸っても外観に変化は起こらない。また吸水速度、吸湿力も優れている。無色透明、小さな粒状で、小袋にいれて使用する。粒の大きさをそろえたもの、きれいな球形にしたものなどがある。塩化コバルトを含浸させたものは青ゲルといって、乾燥状態では青色、吸湿するとピンク色になるので、吸湿力があるかないか目でみてすぐにわかる。透明なシリカゲルの中に青ゲルを少しまぜて使用することもあるが、コバルトを含有しているので衛生上好ましくなく、使用しないことが多い。

○生石灰
 生石灰(酸化カルシウム、CaO)はシリカゲルとともに最も多く使用されている乾燥剤である。普通は白色ないし灰色の小片であるが、水を吸収して消石灰になると体積が約3倍にまでふくれ、粉末になる。さらに、急に吸収すると発熱し、水溶液は強アルカリを呈す。

CaO+H2O→Ca(OH)2+15.2cal

 したがって、飲み込んだり目に入ったりすると、のどをやけどしたり失明の危険性もある。現に子供の事故例や、発火して火事になったこともある。そこで、日本石灰乾燥協議会では、自主規制によって生石灰乾燥剤の包装材料について、品質、強度、表示などを定め、事故の発生を未然に防止するための対策を講じている。
 生石灰の吸収速度は、高湿度では比較的早く、低湿度ではゆっくりと反応するいわゆる自己調節型となっている。吸水は化学反応であり、ドライベースで32%の理論上吸水能をもち、低湿度においても吸湿容量が大きい。またシリカゲルに比べると安価なので、工程間移動や一時保存などの乾燥剤として使用されたり、味つけのりや焼きのりのように軽い商品に用いて重量感をもたせることもできる。

○塩化カルシウム加工品
 塩化カルシウム(塩カル)は急激に吸収すると発熱するし、夏場の室温で放置すると、潮解性のためにどろどろになる。このため、そのままでは使用できない。そこで、耐熱性無機質の担体に浸み込ませて潮解性をなくした加工品が市販されている。吸湿力は生石灰と同じぐらいである。加工品の20℃、65%RHにおける吸水速度および吸水容量はシリカゲルと同じ程度である。塩化カルシウム加工品はよほど吸湿しないと吸湿力が残っているかどうかは判別できない。

○シリカアルミナゲル
 シリカアルミナゲルは、シリカアルミナともアルミナゲルとも呼ぶ。シリカゲルと同じく、吸着によって水分を吸収する。発熱はほとんどなく、潮解性もない。水にぬらすとどろどろになるが、溶解性はない。低湿度ではシリカゲルより吸湿率が高いが、高湿度では逆転する。シリカゲルに比べて性能的にはやや物足りないが、安全な乾燥剤である。

○シート状乾燥剤
 一般に乾燥剤といえば小粒状のものが小袋包装されているが、特殊なものとしてシート状の乾燥剤が市販されている。この乾燥剤はうすい板状になっており、厚みと面積によって吸水能を設計する。乾燥に塩化カルシウムを用いているが、潮解性がないように工夫されている。
 シート状の形を生かして、台紙、商品のクッション、間仕切り等に利用できる、小袋でないので破壊する事故がない、等の特徴がある。しかしその反面、粒状乾燥剤よりかなり割高になる。表面積が大きいので管理がむつかしく、使用するまでの能力低下が大きい、等の欠点がある。
   (食品と乾燥剤)
 吸湿性食品を分類すると、最も吸湿性が強いグループは凍結乾燥食品(乾燥野菜、乾燥肉、乾燥果実、卵類など)、粉末しょうゆ、インスタンタコーヒー、などである。これらの食品はわずかな水分でも影響を受けやすく、すぐに変質するので高度な防湿包装が必要である。したがって乾燥力の強いシリカゲルが適している。また、包装材料の防湿性が高いほど乾燥剤は大きな力を発揮する。第2番目のグループは、焼きのリ、味付けのリ、あられ、せんべい、キャンデーなどの食品で、これらはおおよそ20%RH以下の湿度に保てば吸湿による品質変化を生じない。生石灰でも十分に使用できるので、流通条件、包装形態の条件により、シリカゲルなどと使い分けるのがよい。つぎに、ビスケット、乾めん、クッキーなど、袋内湿度が40~50%RHでもよいグループには遅効性である生石灰が適している。このような食品にシリカゲルを用いると、食品からの水分がシリカゲルに移行してその効果を発揮しないこともある。また、袋内湿度も必要以上に低くなるので、外部の湿気をより多く引き込むことになる。
 乾燥剤小袋の材質は、シリカゲルの場合はOPP/PE、紙/PE、不織布/PE等、生石灰の場合は紙/PE/PPクロス/PEが多い。これらのフイルムに針穴で小孔を設け、その数と大きさで吸湿速度を調整することによって乾燥剤の能力を有効に利用できる。

(乾燥剤の使用量計算方法)
 使用する乾燥剤の種類が決まれば、次は封入量を決める。乾燥剤の封入量は、包装フイルムの透湿度、食品の初発水分含量、限界吸湿量、袋内台紙・ひねりセロハン等含水物の有無、流通条件(温度、湿度、期間)等によって決まる。これらの条件を正確につかむことによって、吸湿による返品がほとんどなくなるほどに確実な防湿包装設計が可能となる。
 まず、袋内水分量を計算する。袋内空気中の水分、台紙・説明書・仕切板紙・個装紙等の水分を合計する。次にフイルムの透湿度と袋表面積から、設定温湿度条件、流通期間内における1袋あたりの透湿量を計算する。さらに、食品の包装時の水分と吸湿限界水分量から、食品の吸水許容量を求める。これで基礎数値はそろったわけで、袋内水分と透湿量の合計から食品の許容吸水量を差し引いたものが、乾燥剤が吸収しなければならない水分量である。これを式で示すと次のようになる。
        
必要乾燥剤量(g)=(A+B-C)×(100/D)

A:食品を除く袋内の水分量合計(g)
B:流通期間中の外部からの透湿量(g)
C:食品の許容吸水量(g)=商品限界水分量-包装時水分量
D:食品の限界湿度での乾燥剤の吸水能(%)

さらに正確にするためには、袋内湿度の変化に対応する透湿量の総量を求めればよい。最近のパソコンを使用すれば瞬時に計算できる。外気条件は夏場30℃、80%RHに設定する。プラスチックの透湿量は、同一温度では水蒸気圧に比例するが、温度が変われば変化するので、実測したほうが正確である。
 上記の式で、IPDの場合は、Cの代わりに(食品の包装時の水分-許容吸湿量)をA+Bに加える。また、(A+B)よりCのほうが大きい場合は乾燥剤は不要である。CよりAのほうが大きい場合は、缶・びん詰のように透湿量が0でも乾燥剤を必要とする。
 なお、これらの計算はコンピュータによって、瞬時に計算することも簡単にできる。