微量アレルギー物質の表示
はじめに アレルギー物質の表示についてはすでに紹介しましたが、アレルギー物質の表示が義務づけられたのは平成13年4月1日です。表示しなければならないアレルギー物質は小麦、そば、卵、乳、落花生の5品目(以下「特定原材料」という)です。これら特定原材料を含む加工食品について、当該特定原材料を含む旨を記載しなければなりません。また、あわび、いか、いくら、えび、オレンジ、かに、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチンの19品目(16.12.24 「ばなな」が追加され、20品目になった)についても、当該食品を原材料として含む旨を可能な限り表示するよう推奨されています。
アレルギー物質については人の健康、生命に影響することから、もし表示ミスがあれば商品の販売禁止、回収となる可能性もあります。特に微量のアレルギー物質の取り扱いについては注意が必要です。
以下、厚生労働省の「アレルギー物質を含む加工食品の表示ハンドブック」から、微量アレルギー物質の取り扱いとコンタミネーションへの対応について抜粋した。 微量の取り扱いについて -アレルギー反応を誘発するアレルギー物質量- 食物アレルギーは、人により極微量のアレルギー物質(タンパク質)によっても発症します。そのため、その含有量にかかわらず特定原材料等を含む旨の表示を要します。
ただし、最終加工品における特定原材料等の総タンパク量が数μg/ml濃度レベル又は数μg/g含有レベルに満たない場合はアレルギー症状を誘発する可能性が極めて低いため、表示を省略することができるとされています。
最終加工品における量についてはあくまでも最終加工品の実測値で判断してください。しかし、測定法が確立しておらずやむを得ず推測する場合には原材料からの情報を収集し、含有量を計算することが大事です。 <微生物に由来する酵素製品の特定原材料等> 加工食品を製造する場合、酵素処理を行うことが少なくありません。果実・野菜よりジュースを製造する場合、搾汁後ペクチナーゼ、セルラーゼ、へミセルラーゼ等による酵素処理を行います。これらの酵素の中には微生物に由来するものがあり、この微生物を培養するのに培地を使用しています。これら培地には特定原材料等を使用する場合が多くみられます(次表)。そのため最終製品での特定原材料等の量についての確認をする必要があります。
表1.酵素が使用される加工食品と培地に使用される特定原材料等 | ||
加工食品例 |
使用されることがある酵素例 |
培地に使用される特定原材料等例 |
鰹エキス、肉エキス | プロテアーゼ | 小麦、大豆 |
醤油、味噌 | グルタミナーゼ | 乳 |
パン | ヘミセルラーゼ | 大豆 |
チーズ | レンネット | 小麦 |
オリゴ糖 | マルトトリオヒドロラーゼ | 乳、大豆、小麦 |
砂糖 | デキストラナーゼ | 乳 |
ジュース | ペクチナーゼ | 小麦、大豆 |
柑橘果物缶詰 | ヘスペリジナーゼ | 小麦 |
茶、ウーロン茶、紅茶 | アミラーゼ | 小麦、大豆 |
食酢 | アミラーゼ | 乳、大豆 |
植物油 | ホスホリパーゼ | 乳 |
カマボコ,豆腐,麺 | トランスグルタミナーゼ | 乳 |
<事例:果実・野菜ジュース> 果実・野菜ジュースの場合、使用する酵素を産出する微生物の培地に小麦グルテンを使用することがあり、酵素製品に特定原材料である「小麦」が含まれる可能性があります。酵素製品中に含まれる小麦たんぱくは、現在の分析技術では検出できない程度の低濃度です。最終加工品では各々の検出限界濃度を、含まれる最大濃度とみなして表示の必要性を検討することになります。また、微生物由来の酵素製品の場合、一般的には抽出、ろ過、遠心分離、限外ろ過、エタノール沈澱等の組み合わせにより精製されますので、このように精製が十分に行われている場合には表示の必要はなくなります。以下の事例は表示の必要性を検討し、表示の必要性がないと判断した事例です。
例)小麦グルテンを分析し、一定量以下だった場合 |
「小麦グルテンの検出限界(20ppm)以下」 「酵素製品の添加量:0.05%」 ↓ 小麦グルテン(酵素由来特定原材料)の最終食品での推定最大含量: 0.01ppm以下(10ng/ml 以下) 計算式:20ppm 以下×0.05 %=0.01ppm(10ng/ml) ↓ 「表示の必要はない」と判断します。 |
コンタミネーションへの対応 食品を製造する際に、原材料としては使用していないにもかかわらず、特定原材料等が意図せずごく微量、最終加工食品に混入(コンタミネーション)してしまう場合があります。例えば、ある特定原材料等Aを用いて食品Bを製造した製造ライン(機械・器具等)で、次に特定原材料Aを使用しない別の食品Cを製造する場合製造ラインを洗浄したにもかかわらず、その特定原材料等Aが混入してしまう場合などがそれにあたります。食物アレルギーは、人によりごく微量のアレルギー物質によっても発症するので、表示が必要です。 -事例- 先日、知人からいただいたみやげ菓子をピーナツ非含有であることを確かめて食べたにもかかわらず、1時間後に呼吸困難、浮腫、全身蕁麻疹をともなうアナフィラキシーショックを起こして搬送、入院となりました。幸い回復しましたが、お菓子しか原因が考えられなかったので、メーカーに問い合わせたところ、製造工程でピーナツサブレとミキサーを共有しており、ピーナツサブレ製造後の洗浄が不十分であったため、混入事故があったことが判明しました。メーカーは直ちに保健所に届け、指導の下、今後ピーナツ菓子専用のミキサーを設置するとの改善策、回答を得ました。
(解説)これは、表示から安全であることを確認した上で購入し飲食したにもかかわらず、症状がでた事例です。洗浄が不充分であることが問題で、微量ではあるが、ピーナッツが混入しました。このようなコンタミネーションがないように、生産ラインを十分に洗浄すること
特定原材料Aを使用して食品Bを製造した製造ライン(機械、機具等)において、特定原材料Aを使用しない食品Cを製造する場合において、洗浄などをするにもかかわらず、その特定原材料Aが混入する場合があります。必ず混入するということであれば、食品Cは特定原材料Aを使用していると考えられますので、特定原材料Aについては表示が必要となります。 食物アレルギーはごく微量のアレルギー物質によっても発症することがありますので、コンタミネーションがないよう、生産ラインを十分洗浄することが大切です。また、可能な限り専用器具を使用することも有効であり、特定原材料等を含まないものから順に製造することも考えられます。そして、生産ラインにおいてどのような原材料を用いた食品を製造しているのか管理し、必要に応じて消費者に情報提供することができる体制を整えることが大事です。コンタミネーションの表示方法への対応としては、注意喚起を原材料欄外に記載可能となっています。しかし、「入っているかもしれません」「入っている場合があります」などの表示(可能性表示)は、たとえ原材料表示欄外であっても認められていません。 -注意喚起事例- 例1) 落花生入りのチョコレートを製造した後、プレーンのチョコレートを製造した場合、油脂分の多いチョコレートは水でラインを洗浄せずにチョコレートで製造ラインを洗浄します(共洗い)。しかし、落花生の油脂分を除去することは難しく、ライン切替後もしばらくは極微量であるが、プレーンチョコレートに落花生の油脂分が混入することになります。(時間とともにその混入は減少)。ただし、常に数μg/g以上ある場合には、アレルギー表示をしなければなりません。 欄外表示例:本製品の製造ラインでは、落花生を使用した製品も製造しています 例2) 米国のミシシッピー流域は大豆・とうもろこし・小麦などの大穀倉地帯で、その輸送には川が利用されています。穀物サイロ、はしけなどは共用使用されているため、とうもろこしには大豆や小麦が意図せずに混入してしまいます。その結果、このとうもろこしを使用してコーンフレークなどを製造した場合には、大豆や小麦が混入していることになります。 欄外表示例:とうもろこしの輸送設備等は大豆、小麦にも使用しています