LECTURE

食品包装基礎講座

食品衛生法による包装食品の食品添加物表示方法

 
はじめに  昭和63年7月27日の厚生省令第46号、第47号と、平成元年11月28日の厚生省令第48号によって、食品衛生法による食品添加物の表示方法が全面的に改正されてから久しい。しかし、いまだに添加物表示についての問い合わせが多いので、改めてその実務を紹介することにする。


添加物表示の主なる内容
(1) 合成添加物、天然添加物(化学的合成品以外の食品添加物)の区別なく、これらの添加物全部が表示対象になる。
(2) 表示の方法は、物質名表示が原則である。物質名については、一定のルールに従った簡略名称も別に定められており、これらの中から選択しなければならない。
(3) 着色料、保存料、酸化防止剤など表示の必要性が高いものについては用途名を併記しなければならない。
(4) 香料、調味料などのように通常複数の添加物の組み合わせで使われ、個々の成分を表示する必要性の低いものや、食品に常在するようなものは一括名表示が認められている。
(5) 加工助剤、キャリーオーバー、栄養強化の目的で添加した添加物については表示が免除される。
表示の具体的な方法


(1) 物質名による表示
 食品添加物の表示は、その固有の名称である物質名により表示することが原則となっている。
 合成添加物の場合は食品衛生法施行規則別表第2に記載されている品名または別名、あるいは昭和63年衛化第42号(衛化42)による簡略名を用いる。
 天然添加物については「化学的合成品以外の食品添加物リスト」に記載されている品名(慣用名および別名)、あるいは簡略名又は類別名(簡略名、類別名もリストに記載)によって表示しなければならない。
 このルール以外の方法でかってに簡略化して表記することはできない。例えば、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEを併用した場合、「V.A、V.C、V.E」とは表示できるが、「ビタミンA、C、E」、「ビタミンA/C/E」、「V.A、C、E」などとは表示できない。


(2) 用途名併記による表示
 表示の必要性の高い食品添加物については物質名のほか、用途名を併記しなければならない。表示すべき用途名は次に示した8種類である。
甘味料、※合成甘味料、※人工甘味料
着色料、※合成着色料
保存料、※合成保存料
増粘剤、安定剤、ゲル化剤または糊料
酸化防止剤
発色剤
漂白剤
防かび剤、防ばい剤
※印は化学的合成品の食品添加物の場合に使用できる用途名

 表示方法は用途名の次に()内に物質名を列記するのが原則であるが、次のような特例、注意点にも留意しておく必要がある。

①表示する名称に「色」の文字が使用されている場合、着色料であることが明らかなのでその用途名を省略することができる。

(例) 着色料(青2) →  青色2号
②カラギナンとタラガムのような多糖類を2種以上併用し、「増粘多糖類」の簡略名で表示する場合で、増粘の目的で使用する場合は用途名は省略できる。ただし、安定剤、ゲル化剤、糊料の目的で使用した場合は「安定剤(増粘多糖類)」などと併記する。
③酸味料としてビタミンCを添加した場合は「ビタミンC」、「V.C」などと物質名で表示するが、酸化防止剤として使用したときは「酸化防止剤(V.C)」のように用途名も表示しなければならない。また、栄養強化の目的で使用したことが明らかなときは表示が免除される。
④亜硫酸ナトリウムのように重複した用途名を持つものは使用目的に最も適した用途名を使用する。
⑤「防かび剤」または「防ばい剤」が使用されたかんきつ類とバナナの容器包装には、「防かび剤」または「防ばい剤」という用途名と物質名とを併記する必要がある。


(3) 一括名による表示
 何種類かを配合して一つの目的・効果を発揮する場合は個々の物質名を表示する必要性が低いといえる。このような場合は適切な一括名で表示してもよい。一括名には14種類あり、定義、使用できる添加物の範囲が定められている。下に一括名を示した。
イーストフード
ガムベース
かんすい
苦味料
酵素
光沢剤
香料または合成香料
酸味料
調味料(グループ名)
豆腐用凝固剤または凝固剤
チューインガム軟化剤
乳化剤
PH調整剤
膨脹剤(膨張剤、ふくらし粉、ベーキングパウダーでもよい)
 調味料については、みそ、しょうゆ、エキス類などと区別するためにアミノ酸、核酸、有機酸、無機塩といったグループ名を表記し、2種以上のグループの「調味料」が混合使用されたときは、使用量、使用目的から代表となるグループ名に「等」の文字をつけて表示する。
例:調味料(アミノ酸等)
  (4) 表示の免除
 最終食品に残存しないなどの加工助剤、原料からもちこしてきて最終食品ではわずかにしか残らないキャリーオーバー、栄養強化の目的で使用のもの、及び新規に製造又は輸入した天然添加物で厚生大臣が名称を定めるまでの期間については表示は免除される。


①加工助剤
加工助剤の定義は、
「食品の加工の際に添加されたが、
・最終食品として包装する前に食品から除去されるもの
・食品中に通常存在する成分に変えられ食品中に天然に存在するその      成分の量を有意に増加させないもの
・最終食品にごくわずかなレベルでしか存在せず、その食品になんら影響を及ぼさないもの
のいずれかに該当する場合」となっている。

 加工助剤であるかそうでないかは、上記定義に照らし、使用基準、使用実態等に即して個別に判断されることになる。
a)使用基準で分解、除去または中和などが定められている添加物。
▽油脂製造のときの溶剤は蒸留などの工程で完全に食品から除去される。
▽水酸化ナトリウムや塩酸は中和されると食塩に変わる。
b)使用基準では定められていないが、食品中に残らないことが明らかであるもの、および、中和か分解により食品の成分となるもの。
▽高度サラシ粉、次亜塩素酸ソーダを殺菌剤として使用したとき、分解や水洗され、最終食品には残らない。
▽酒類、清涼飲料に使用される水質調整のためのカルシウム塩は食品に通常存在する成分となる。
▽ココアの品質を調整するための炭酸カリウムなどのアルカリ剤はココア中の酸性成分で中和される。
c)食品の製造工程中に使われた食品添加物が、そのまま、またはその一部が最終食品に意図しないのに残存してしまったが、残存量がごく少なく、効果を発揮しない場合。しかし、残存するように意図的に加えたり、最終食品に影響するほど残存したときは表示の対象となる。
▽発酵食品の発酵工程で消泡のために添加されたシリコーンは最終製品で残存量が微量であり、消泡の効果も期待されておらず、効果ももたない。
▽加工食品の表面や食品機械の殺菌のために噴霧する「エタノール」は加工助剤となるが、エタノールを練り込んだり、エタノール溶液に食品を浸漬処理するものでは、エタノールが食品に残存し、最終食品で効果をもつので、「エタノール」、「アルコール」または「酒精」と表示する。


②キャリーオーバー
 キャリーオーバーの定義は、
「主原料であっても副原料であっても、
・原材料に対して食品添加物の使用が認められており、
・その量が原材料に許可されている最大量を越えず、
・食品が原材料より持ち越された量より多くのその食品添加物を含まず、
・持ち越されたその量が、食品中効果を発揮するに必要な量より有意に少ない場合というすべての条件に該当するもの。」
となっている。

 一般に、副原材料中に含まれる添加物は、最終食品では量も少なく効果もないと考えられ、キャリーオーバーになるが、調味料、着色料、香料など五感に訴えるような添加物は最終製品にも影響するので副原材料といえどもキャリーオーバーとはならない。
▽しょうゆを塗ったせんべいで、しょうゆに添加されていた保存料の安息香酸はせんべいに対して微量であり、保存性にも効果はないのでキャリーオーバーとなるが、しょうゆに添加されていた調味料は、最終食品にも影響するので、表示しなければならない。
▽ドレッシングに使用する植物油には消泡剤としてシリコーン樹脂が含まれる場合があるが、ドレッシングに移行しても全く効果がないのでキャリーオーバーとなる。
▽ビスケット中のマーガリンの乳化剤や酸化防止剤はビスケットに移行しても微量であり、効果もない。
▽ビール原料のコーンスターチやホップ中の亜硫酸は煮沸工程で除去される。
▽添加物製剤は、主目的の食品添加物は食品に表示され、製剤の安定化や製剤の形態を作るための添加物はキャリーオーバーとみなされる。


③栄養強化のための食品添加物
 栄養強化の目的の添加物は、合成品のアミノ酸類、ビタミン類、無機塩類(衛化42)に加えて天然物リストの強化剤(衛化66)があるが、栄養強化目的が明確である場合に表示を省略できる。なお、栄養強化以外の目的で使用する場合には物質名の表示が必要となる。


(5) 表示の実際
①表示対象食品
 マーガリン、酒類、清涼飲料水、食肉製品、魚肉ハム・ソーセージ、冷凍食品、レトルトパウチ食品、その他容器包装に入れられた加工食品や食肉、生かきなどに加えて、防かび剤を使用したかんきつ類やバナナの入った容器包装品(食品衛生法施行規則別表第3)が追加された。


②表示の省略
 容器包装に詰められていない、いわゆる「ばら売り食品」、および、容器包装の面積が30c㎡以下のものは表示を省略することができる(昭和45年厚生省告示第180号)。


③活字の大きさ
 原則として6号活字以上の大きさで表示し、表示面積が狭いため、この活字でどうしても表示できないときには7号活字以上の大きさで表示すること(昭和44年環食第8832号)。参考までにJASではそれぞれ8ポイントと6ポイントになっている。

④表示の場所および順序

 容器包装を開かなくても容易に見ることのできる、容器又は包装の見やすいところに日本語で表示すること(昭和44年環食第8832号)。
 表示の順序は定められていないが、原材料とともに、使用する重量の多い順に表示するのが一般的である。


⑤その他の注意事項
  「天然」、「無添加」、「無着色」、「無漂白」、「添加物なし」などの文字は使用できない。
  天然添加物については、誤解を与えない範囲内でひらがな、カタカナ、漢字を用いることができる。
(例) クチナシ色素 → くちなし色素
      トマト色素 → とまと色素

  ただし、合成添加物については、別表第2または衛化42別紙1以外の物質名は使用できないので、「ミョウバン」を「みょうばん」や「明礬」、「サラシ粉」を「さらし粉」などとは表示できない。