LECTURE

食品包装基礎講座

グラビアインキの基礎知識

 
はじめに
   グラビア印刷など各種印刷方法については前号で述べたが、印刷材料としてのグラビアインキについても知っておきたいという要望があるので、グラビアインキは何からどのようにして製造され、どのような性能を要求されているのかについて解説する。

グラビアインキの組成と製造工程

   グラビアインキは樹脂、溶剤、着色剤、および、助剤からなり、一般的な配合比率は次のようになっている。
樹 脂: 15~25%
溶 剤: 40~70
着色剤: 5~50
助 剤: 1~5

 樹脂を溶剤に溶かしたものをビヒクルという。 (樹脂)
  樹脂は溶剤に溶かされ、版から被印刷物に着色剤を運び、被膜として固着させる働きをする。被印刷物の種類や耐性によっていろいろな樹脂が選択される。グラビアインキによく使用される樹脂を表1に示した。

 

表1.主なグラビアインキ用樹脂
樹脂 組成物 インキタイプ
塩酢ビ樹脂
塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合物
裏刷ラミネート
塩化ゴム、塩素化PP
ゴム、PPの塩素化物
裏刷ラミネート
アクリル樹脂
アクリル酸およびその誘導体の重合物
裏刷ラミネート
ポリアミド樹脂
ダイマー酸とポリアミンとの縮合物
ポリオレフィンなどの表刷インキ
ポリウレタン樹脂
ポリエステルまたはポリエーテルとジイソシアネートの重合物
裏刷汎用インキ
硝化綿樹脂(ニトロセルロース)
セルロースの硝酸エステル化物
セロハン用、ポリオレフィン用など

 
  ポリアミド樹脂と硝化綿樹脂など、用途によって混合樹脂も利用される。ウレタン系樹脂はスナック用からレトルト用まで、ラミネート用汎用インキとして最も多く使用されている。 (溶剤)
   溶剤は樹脂を溶かして印刷できるようにするためのもので、インキの乾燥性を支配する。印刷インキに使用されている主な溶剤はトルエン、MEK、酢酸エチル、IPAである。一般には毒性が少なく、速く乾燥させるために沸点の低い溶剤を使用しているが、乾燥が速すぎて印刷物がかすれたり、うまく印刷できないなどの支障がある場合に、沸点の高い溶剤を混合することによって細かい文字もきれいに印刷できるようになる。しかし、残留溶剤やブロッキングの危険性も大きくなる。それぞれの樹脂に対して、もっともよく溶かす溶剤を真溶剤、性能アップや希釈のための溶剤を助溶剤、希釈剤という。ポリウレタン系の場合の真溶剤はMEK、助溶剤は酢酸エチル、希釈剤はトルエンとIPAである。各インキの種類によって各種溶剤を配合した専用溶剤があり、その中でもクイック、#1、#2,#3など、乾燥速度の違ったものが用意されている。表2に主なる溶剤の種類を示した。

 

表2.グラビアインキ用主要溶剤の種類
分類 溶剤名 沸点(℃) 乾燥速度
炭化水素 トルエン 110.8 やや遅い
キシレン 140付近 遅い
エステル 酢酸エチル 76.8 速い
酢酸ブチル 126.3 遅い
アルコール IPA 82.4 速い
ブタノール 117.5 遅い
ケトン MEK 79.6 速い
MIBK 116.7 遅い

 
(着色剤)
  着色剤には、色鮮やかで溶剤に溶ける染料と、溶剤には溶けない顔料がある。染料タイプはグラビアインキには使用されていない。顔料は無機顔料と有機顔料に分けられる。無機顔料には酸化チタン(白色)、カーボンブラック(黒色)、アルミ粉末(金銀色)などがあり、有機顔料にはアゾ系のものが多い。顔料を含まないインキはメジュームといって、無色であるが、透明ではなくやや濁っているものが多い。色目を変えないで粘度を保ち、被膜を形成するために用いられる。インキメーカーでは各インキタイプで基本色を用意しており(表3)、印刷時はこれらの基本色インキを混合・調色してデザイン通りの色を再現する。

 

表3.グラビアインキの基本色の例と耐性
基本色の例 顔料分類 耐光性 耐酸性 耐アルカリ性
マストーン チント
102牡丹 不溶性アゾ 5 2 5 5
104紅 溶性アゾ 4 1-2 4 4
105紅 溶性アゾ 5 3 4 4
115紅 不溶性アゾ 5 5 5 5
203赤 溶性アゾ 5 2 4 4
307橙 不溶性アゾ 5 3 5 5
403透明黄 不溶性アゾ 5 3 5 5
407B中黄 不溶性アゾ 4-5 1-2 5 5
500草 フタロシアニン 5 5 5 5
507原色藍 フタロシアニン 5 5 5 5
607紫 ジオキサジン 5 5 5 5
709白 酸化チタン 5 5 5 5
805墨 カーボンブラック 5 5 5 5
ゴールド アルミニウム 5 - 2 1
シルバー アルミニウム 5 - 2 1
5:優れている←→1:劣る

 
(助剤)
  助剤は物理的、化学的な安定性や、印刷適性を向上させるための添加剤である。安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤などがある。

 
(製造工程)
  ビヒクルの製造は樹脂を溶剤に溶かすだけで簡単であるが、ミクロンオーダーの均一な粒子になっている着色剤をビヒクルに分散させる工程(練肉・分散)では技術と工夫が必要である。練肉・分散が不十分なインキは印刷適性と保存性が劣る。練肉には専用の特殊なミルが用いられる。こうしてできたベースに助剤を添加し、最後の仕上げ工程として色や粘度の調整を行う。

 
ビヒクル製造(樹脂+溶剤)

ベース(着色剤混合)

調整(助剤添加)

グラビアインキ
 
包装用グラビアインキに要求される性能
 食品包装用グラビアインキに要求される性能を、印刷時および印刷物に分けて列挙すると、次のようになる。一般にはインキと溶剤は写真のような密封性斗缶で納品され、使用時には調色されたインキを専用溶剤で希釈し、適切な粘度にして印刷機のインキバットにセットする。

 

写真. インキ(左)と溶剤(右)
 
(印刷時)

・印刷中、ドクタースジ、版づまり、ツーツー汚れ、版カブリ、圧胴汚れ、トラッピング不良など、インキに起因する印刷不良を発生しにくいこと。
・印刷後、インキバットには必ずインキが残るので、余りインキの保存性、再溶解性がよいこと。

 
(印刷物)
・残留溶剤が少なく、無臭または低臭であること。
・耐候性、耐光性があること(変色しないこと)。 この性質は色種(顔料)によって大きく異なる。
・印刷物を巻取ったときブロッキングしないこと。
・フイルムへの接着強度の経時的な劣化がないこと。接着強度の簡易的な評価法としては揉み、ひっかき、セロテープテストがよく利用される。
・表刷用インキでは包装時にシールバーにインキがとられないこと、裏刷インキでは耐ボイル、耐レトルトの耐熱性が要求される。また耐寒性も必要になるときも多い。
・耐内容物性があること。せっけん、油脂性食品、各種薬品などの包装用途では、使用するインキタイプを選定する必要がある。

 
包装用グラビアインキの用途別分類
  包装フイルムの印刷面をじっくり観察すると、微妙な光沢の違いで、フイルムの表面に直接印刷されているもの、フイルムとフイルムでサンドイッチにされているもの、袋の内面に印刷されているものなど、どの面に印刷されているかがわかる。フイルムの表面に印刷されている場合を表刷(おもてずり)、フイルムの裏面に印刷され、フイルムを通してインキをみる場合を裏刷(うらずり)という(例外として、表刷インキ面にフイルムを貼り合わせたものもある)。表刷と裏刷とでは各色の刷り順が逆になる。また、不透明なフイルムは表刷になるし、裏刷の場合は透明タイプのフイルムになる。

 
(表刷用インキ)
   単体フイルムの場合、インキは裏面又は表面に印刷されることになる。印刷インキが食品に接触することは食品衛生法で禁止されているので、内装のない食品の包装では表刷になる。フイルムはOPP、CPP、PEなどのポリオレフィンが主体で、印刷しやすいようにコロナ処理されているフイルムが多い。インキも処理用、未処理用、処理未処理兼用タイプがある。現在は処理未処理兼用タイプが主流である。表刷用インキには光沢、すべり性、耐摩擦性、耐ヒートシール性、耐油性、耐ブロッキング性などの性能が要求される。ほかに、煮沸麺包装用、強化ポリエチレン用、重袋用などの用途別インキがある。

 
(裏刷用インキ)
   ほとんどの包装フイルムではインキは2種類以上のフイルムでサンドイッチにされる。印刷部分の光沢(フイルムの光沢になる)が良い、表面から擦られてもインキがとれない、内容物と直接接触しない、写真版がきれいなど、裏刷には多くのメリットがある。耐薬品性、耐レトルト性などの性能もサンドイッチにされているからこそ実現できるのである。用途別ではスナック包材用、ボイル・レトルト包材用、薬品包装用などがあり、ほとんどがウレタン系汎用型インキで対応できる。さらに耐性が必要なときは汎用型インキに硬化剤(ハードナー)を添加して二液型インキとして使用する。汎用インキはPET、ON、OPP、Kコートなどに印刷できる。

 
(その他のインキ)
   上記以外の包装用グラビアインキとして、アルミ箔用、アルミ蒸着フイルム用、紙用、塩ビ用、スチレン用、収縮フイルム用などがある。

 
その他のグラビアインキに関する知識
(食品衛生法)
  食品包装用グラビアインキは食品衛生法による規格試験に適合しているが、インキと食品が直接触れる用途には禁止されている。印刷インキは着色料と解釈されるので、食品に接する着色料は食品添加物として認可されているものしか使用できない。
(NL規制)

  印刷インキ工業会の自主規制で、ネガティブリスト(NL)によって食品包装用インキには使用できない物質を定め、安全性を守っている。
(環境対策インキ)
    トルエンは環境的に好ましくないといわれており、トルエンを使用しないノントルエンインキはかなり普及してきた。一方、水性インキは設備的、性能的にも問題があるため、さらなる品質向上を果たさなければ、普及はかなり遅れることになる。

 
参考文献:大日本インキ化学工業株式会社技術資料