LECTURE

食品包装基礎講座

いろいろな印刷方法とその特徴

  はじめに

印刷にもいろいろな方式がある。包装食品では商品名、一括表示などの情報が印刷されているが、これらはグラビア方式で印刷されている。新聞や出版ではオフセット印刷が多く、段ボール印刷では水性インキを使用したフレキソ印刷が多い。そこで、現在実用されている主要印刷方式の概略を紹介する。

1.代表的な3つの印刷方式
最新の印刷技術ではあてはまらない場合もあるが、一般には同じ印刷物を大量に作るためには版が必要である。版の形状で分類すると凸版、凹版、平版の3つが代表的である。その原理図を図1に示した。このほか孔版があり、これも加えて4版式ということもある。

 

図1.代表的な印刷の版形式


2.凸版印刷
非印字部分より印字部分が高くなっており、そこにインキをのせて非印刷物に転写する。ゴム印、印鑑、版画などを思い起こせば原理は簡単に理解できる。印刷の歴史ではもっとも古い印刷方式である。活字を組んで印刷することから始まったので活版印刷と呼ばれることもある。紙への印刷が多い。
 輪転印刷での版は金属製シリンダーが一般的である。線画やベタ印刷は得意であるが、微妙な色調を出しにくく、画像の印刷が多くなるに従って新聞や雑誌の印刷ではオフセット印刷に取って代わられた。凸版輪転印刷方式は一部に限られており、機械メーカーも1社だけとなっている。今後も減少する傾向にあると思われる。

 

図2.輪転式凸版印刷原理図


3.フレキソ印刷
 版は凸版であるが、材質はゴムやプラスチックからできている。版の耐久性はないが、他の印刷方法に比べて版をつくりやすく、コストも低いのが大きな特徴である。我が国では段ボールの印刷で広く使用されている。プラスチックフイルムへの印刷でも、PEチューブなどへの表刷印刷に一部利用されている。食品包装の印刷では、精密で高度な印刷効果を重視することが多いため、ほとんどがグラビア印刷である。アメリカでは版およびハードコスト重視のためグラビアよりフレキソの方が普及している。ヨーロッパでは半々である。中国やアジアでは日本の影響もあり、グラビア印刷が多い。

 

図3.共通圧胴型フレキソ印刷8色機


4.オフセット印刷
 印刷部分と非印刷部分で版に高低がなく、平版印刷と呼ばれる。なかなか理解しにくいが、非印刷部は水系、印刷部は油系の性質を持たせ、水を含ませながら油性インキを塗ると、水系部分はインキをはじき、印刷部分にのみインキが付着し、転写すると印刷物ができあがる。新聞、写真印刷、ポスター、雑誌などの紙への印刷の大部分はオフセット印刷である。枚葉式と輪転式がある。この平版方式は、刷版から直接紙などに印刷される(じか刷り)ことは少なく、図5のように、インキを刷版からブランケット胴に転写し、さらにブランケット胴から紙等に転写するのでオフセット印刷と呼ぶ。これは平版が機械的に耐久性がなく、じか刷りでは版の損傷が大きいからである。最近では水系層のかわりにシリコーン層を利用する水なし平版も普及している。

 

図4.輪転オフセット印刷模式図

 
5.シルク印刷
 スクリーン印刷(孔版印刷)ともいわれ、スクリーン(網)状の版を使用する。昔の謄写版をイメージするとわかりやすい。非印刷部はスクリーンの小孔をふさぎ、印刷部はインキが透過するように加工されており、スクリーンの片面全体にインキを押し広げ、押圧によって下の非印刷基材に印刷する方法で、凸版に次ぐ古い歴史をもつ。最初、絹糸で版を作ったことからシルク印刷と呼ばれる。微妙な色調印刷や大量印刷には向いていない。布や曲面への印刷が得意である。

 

図5.スクリーン印刷模式図


6.グラビア印刷(凹版印刷)
 図1および図6に示したように、グラビア輪転印刷では、シリンダー状の版に小さな穴(くぼみ)があいており、ファニッシャーロールについたインキが版全面に移り、穴のない部分(非印刷部分)のインキはドクターで掻き落とされ、穴に残ったインキが圧胴で押さえられてフイルムに転写する。この方式は高速印刷で大量の印刷物製造に適している。
 我が国では包装フイルムの印刷はほとんどがグラビア印刷である。版の製造コストは高いが、簡単な文字印刷から美麗な写真印刷までの印刷が可能で、他方式に比べて版の寿命も長い。
 書籍用グラビア印刷機と包装用グラビア印刷機とは構造が大きく異なっている。前者は両面印刷機構や折機が組み込まれており、大がかりなので設置は大手印刷会社に限られる。包装用は小型から広巾・高速タイプまでの多くの種類が実用されている。

 グラビア印刷の版は鉄製のシリンダーからできており、これに銅メッキをし、この銅面に目的のデザインをダイヤモンドシングルヘッドの電子彫刻機で穴を掘っていく。さらにこのままでは耐摩性に劣るのでクロムメッキをして使用する。製版方法には各種あるが、現在の主流は銅メッキしたシリンダーに直接彫刻する上記の方法である。また、2色印刷では2本、7色印刷では7本の版が必要となる。

 

写真1.グラビア版
 

図6.グラビア印刷ユニット模式図
 

写真2.グラビア印刷ユニット部分

 
写真下部のインキがべったりと付いたローラーがファニッシャーロール、その上のシルバ 
ーの大きなシリンダーが印刷版、その上に圧胴(ガイドローラに隠れている)がある。ファ 
ニッシャーロールがなく、刷版がじかにインキバットにつける方式もある。         


 
7.その他の印刷方法
 静電気を利用した静電印刷、パソコン用プリンターでおなじみのインクジェット印刷、レーザー印刷などがあるが、いずれもプラスチックフイルムなど包装材料への印刷には利用されていない。
 最近急速に発達してきたデジタル印刷が注目されている。少部数を短納期で印刷するというオンデマンド印刷、デジタルデータを直接版に焼き付けるダイレクト刷版(CTP、コンピュータ・トゥ・プレート)、版を使わずに直接被印刷物に印刷するダイレクトイメージング印刷システムなどである。いずれも既存方式とは異なった、コンピュータ処理を主体にしたデジタル最新方式で、今後包装分野でも小ロットやサンプル作成用途の主流になると思われる。将来は大量印刷においても、版をつくるという概念はなくなるかもしれない。

(参考文献)
1)グラビア&フレキソ印刷機 加工技術研究会編
2)印刷雑誌 2000.12(Vol.83)~2001.6(Vol.84) 
 日本印刷学会誌