LECTURE

食品包装基礎講座

生分解性プラスチック(主として食品包装用途)

 
はじめに    海、山、行楽地でプラスチックのごみが捨てられているのを見るのは残念である。環境保護とともに、有限な資源を大切にするという意識をもっと高めなければと感じる。一般に、プラスチックは簡単には腐敗や分解が生じにくく、燃やさないかぎり半永久的にごみとして残る。家庭から出るごみ容積の60%はプラスチックなどの容器包装といわれている。埋め立て地もなくなり、このままでは日本列島はごみだらけになることは目に見えている。
  生分解プラスチックとは、ごみとして地中に埋められると、徐々に分解し、ある一定期間後には跡形もなくなり、最終的には細菌によって水と二酸化炭素になるものである。生分解性プラスチックの多くはでんぷん等、石油以外を原料としており、焼却されたとしても燃焼カロリーは一般のプラスチックよりかなり低く、環境負荷が小さいといわれている。使用期間中はしっかりした性能を保ち、不要になると自然に戻るという理想的なプラスチックである。包装以外ではかなり実用化が進んでいる分野もある。包装フイルムとしても、ソニーがMDの包装に採用を明らかにした(2000.12.1朝日新聞)。まだ問題点も多いが、いよいよ現実になりつつある。
  植物のデンプン

生分解性プラスチック

土中で酵素により分解

微生物により二酸化炭素と水に分解

植物に取り込まれる
図1.生分解性プラスチックの環境サイクル(一例)   生分解性プラスチックの現状、および、メーカーと製品紹介    生分解性プラスチックはかなり古くから研究されており、多くの種類が開発されている。現在までの主要なメーカーと製品を表1に示した。しかし、今後、品質改良が進まない、採算が合わないなどの理由で淘汰されていくことになると思われる。また、現在実用化が進んでいたり、開発中である用途を表2に示した。
 

表1.生分解性プラスチックおよびフイルムの日本の主要メーカーと商品名
メーカー 種類 商品名 成分
Novamont
日本合成化学
デンプン+化学合成系 マタービー デンプン+化学合成系
三菱ガス化学 微生物産生系 ビオグリーン ポリヒドロキシブチレート
ダイセル 化学合成系 セルグリーンPCA ポリカプロラクトン
天然物系 セルグリーンPH 酢酸セルロース
昭和高分子
昭和電工
化学合成系 ビオノーレ ポリブチレンサクシネート
ポリブチレンサクシネート/アジペート
島津製作所 化学合成系 ラクティー ポリ乳酸
三井化学 化学合成系 レイシア ポリ乳酸
日本触媒 化学合成系 ルナーレSE ポリエチレンサクシネート
ユニチカ(フイルム加工) 化学合成系 テラマック
(フイルム)
ポリ乳酸
東セロ(フイルム加工) 化学合成系 パルグリーンLC ポリ乳酸(三井化学のレイシアを使用)
化学合成系 パルグリーン
BO
変性ポリエステル(DuponのBiomaxを使用)
表2.生分解性プラスチックの用途例
分野 用途
農業水産資材 マルチフイルム、苗ポット、漁網
土木建築資材 断熱材、緑化用資材、工事などの防水シート、植生ネット
包装用 雑貨包装フイルム、ゴミ袋、食品包装用フイルム、緩衝材、容器、不織布
医療用 手術用縫合糸、骨接合ボルト
衛生用品 紙おむつ、生理用品
雑貨・事務用品 ペンケース、歯ブラシ、コップ、水切りネット、芯ケース
その他 ゴルフティ、釣り糸、擬似餌、接着剤

  生分解性プラスチックの価格は700~1000円/Kgで、PPやPEの100円/Kgと比べると、まだかなり高価であるが、アメリカで、2001年末稼働予定の大規模なポリ乳酸製造プラントを建設中である。国内でも各メーカーの増産計画が進んでおり、将来的にはポリエステル並の価格になると予想されている。

   表1の中から、食品包装用フイルムとして可能性の大きい樹脂およびフイルムについて、いくつかを紹介する。

「レイシア」三井化学株式会社
 http://www.mitsui-chem.co.jp/info/lacea/index.htm
   レイシアはトウモロコシなどのでんぷんからできた乳酸を直接重合法により重合させたもので、ポリ乳酸系樹脂である。透明性がよく、石油以外を原料としているなどとは信じがたいくらいである。実用性のある包装用材料としてはこのポリ乳酸系および変性ポリエステル系が最も有力視されている。
 

図2.ポリ乳酸(PLA)

 
「パルグリーン」東セロ株式会社
http://www.tohcello.co.jp/

   東セロでは、三井化学のポリ乳酸[レイシア]樹脂をフイルムにした「パルグリーンLC」と、デュポンの生分解性変性ポリエステル[BIOMIX]を用いた「パルグリーンBO」を上市している。両者共に透明性がよく、ポリスチレンに似た感触がある。表3にLCとBOのフイルム性能を示した。
 表からわかるように、透明性が非常に高く、強度も一般のプラスチックなみで、包装材料のベースフイルムとして、十分に使用可能である。防湿性およびガスバリヤー性はともに劣るが、アルミ蒸着、透明蒸着などによって克服できる。単体でヒートシールも可能であるが、強度が出ない、脆いなどの欠点があり、用途は限られる。

表3.東セロ「パルグリーン」の物性
項目 単位 測定方法 パルグリーンBO パルグリーンLC OPP O-PET
厚み μm   20  20 20   25
密度 103Kg/m3  JIS K7112  1.35  1.26 0.91   1.40
引張強度(MD/TD) MPa  JIS K7127 130/130 100/120  130/260   210/220
引張伸度(MD/TD)  JIS K7127 180/170 110/90  200/60   120/120
引張弾性率(MD/TD) MPa  JIS K7127  3200/3300  3300/4200  2100/4200  5200/5400
引裂強度(MD/TD) N  JIS K7128  0.35/0.10  0.25/0.15  0.25/0.10 0.15/0.15 
衝撃強度 J   フイルムインパクト  0.8 0.9   0.7  1.0
光学性ヘイズ  %  JIS K6711  1.0 1.2   2.0 3.0 
光学性トランス  %  JIS K6711  90 93   92 88 
加熱収縮率(MD/TD)    東セロ法        
100℃×15分  %    1.5/0.5 1.0/0.5  1.0/0.5   0.5/0.0
120℃×15分  %    2.5/0.5 2.5/0.5   2.5/1.0  0.5/0.5
透湿度(40℃、90%RH) g/㎡・d   JIS K7129 80  250  5  20
ガス透過度(20℃60%RH)    JIS K7126        
酸素ガス  cc/㎡・d・atm.   80  800  2500 60
炭酸ガス  cc/㎡・d・atm   400 2500   7000 300

 
「テラマック」ユニチカ株式会社
http://www.unichika.co.jp/film/
 ユニチカの「テラマック」も、ポリ乳酸をフイルムにしたもので、「パルグリーンLC」と同等の性能を持っている。
 

項 目 単 位 『テラマック』フィルム PETフィルム
融    点 170 256
ガラス転移点 57 69
比    重 1.27 1.39
引張強度(MD/TD) MPa/mm2 140/160 240/230
引張伸度(MD/TD) 140/120 120/110
引張弾性率(MD/TD) GPa/mm2 4.0/4.4 4.4/4.4
乾熱収縮率 100℃ 1.0/0.5
(MD/TD)160℃ 5.0/4.0 1.5/0.5
水蒸気透過量 g/m2・24hrs 620 55
酸素透過量 ml/m2・d・MPa 4,300 840
全光線透過量 87 87

 
「ビオノーレ」昭和高分子株式会社
http://www.shp.co.jp/office_home.htm
   「ビオノーレ」は、グリコールとジカルボン酸から化学合成でつくられた、ポリブチレンサクシネート系生分解性プラスチックで、溶融状態の粘度がPPやPEに似ており、加工しやすく、熱シールも容易なので、コンポスト袋などに使用されている。
 

表4.昭和高分子株式会社「ビオノーレ」の物性(チューブラー法)
性能 単位 #1001 #3001 #3001V30 HDPE(20μm厚)
融点 114 95 95 132
密度 g/㎝3 1.26 1.23 1.47 0.945
引張強度 MPa 62/59 50/60 35/33 41/69
引張伸度 660/710 550/1100 390/630 600/500
引張弾性率 MPa 470/540 310/380 570/690 1470/1030
引裂強度 N/mm 3.6/11 3.8/12 19/58 9.8/83
インパクト強度 KJ/m 24 78 84 36
備考   生分解の遅い一般グレード 生分解の早い一般グレード 強化グレード ショッピング袋、規格袋

 
「セルグリーン」ダイセル化学工業
http://www.daicel.co.jp/celgreen/index2.htm
   
   ダイセルの「セルグリーン」、昭和高分子の「ビオノーレ」ともに、性状はPEやPPに似ており、シーラントとして使用可能である。しかし、白濁しており、やや脆いので、用途的には制約を受ける。現在はゴミ袋など、コンポスト用途に使用されているが、コストが低下してくれば、「パルグリーン」などとのラミネート品で、ベースフイルム、シーラント共に生分解性プラスチックにすることも可能である。
   セルグリーンには、酢酸セルロース系(P-CA)とポリカプロラクトン系(P-H,P-HB)のグレードがある。
P-CAグレードは、透明性に優れ、高強度、高粘性の特性を有したタイプ、
P-Hグレードは、他樹脂との相溶性に優れ、高強度、高伸度の特性を有したタイプ、
P-HBグレードは、P-Hグレードの耐熱性を改良したタイプである。
用途によってグレードを使い分けることによりその特性が生かされる。

 

評価結果 単位 試験方法
(JIS)
グレード
P-H7 P-HB05 P-CA00
厚み μm   30 50 45
ヘイズ % K7105 55
20 0.6
引張破断強度 kg/cm2 MD Z1707 223 428 679
TD 137 220 546
引張破断伸度 % MD Z1707 414
411 37
TD 253 181 44
引裂き強度 g/cm MD Z7128 152 365 10
TD 349 713 10
衝撃強度 kg・cm インパクトテスター 3
17 2
ヒートシール強度
g/15mm 2kg,1秒 700
(60。C)
1200
(110。C)
350
(200。C)

 
包装用生分解性プラスチックの今後の展望    前述したように、用途が広がり、生産量が増えるとPETと並ぶくらいの価格になると予想されているが、性能的には汎用プラスチックにはおよばないのが現状である。ポリ乳酸フイルムと変性ポリエステルフイルムは、外観上は透明性がよく、やや脆いが、包装材料として有望である。ガスと水蒸気の透過性が大きいが、アルミ蒸着や透明蒸着も可能であり、価格が400円/Kgを切るような状況になれば、環境保護という大義名分によって支持されるかもしれない。
   脂肪族系ポリエステルはポリオレフィンに似ており、透明性と耐衝撃性に劣るが、ゴミ袋に使用されていることから、包装用シーラントとして、用途を限定すれば、使用可能と思われる。

グリーンプラについて
 http://www.bpsweb.net/
   グリーンプラとは生分解性プラスチックのことで、生分解性プラスチック研究会(BPS)が命名した。BPSは生分解性プラスチックの普及活動をしている団体である。詳しい活動の内容や技術的な情報については下記のBPSホームページで知ることができる。Q&Aもあるので参考になる。

参考文献
1)常磐  豊  生分解性プラスチックの実用化の現状と今後の展望  日本包装学会誌  6,4,1997
2)大島一史 生分解性プラスチックの現状と今後 ジャパンフードサイエンス 1999年12月号
3)児島雅博 生分解性プラスチックの現状と展望 食品の包装  31,2, 2000
4)田畠ら 生分解性ポリマーの開発およびその課題  日本包装学会誌  9,6,2000
5)http://www.bpsweb.net/(BPSホームページ)
6)各社カタログおよび資料、各社ホームページから性能表などを借用(一部加工)