LECTURE

食品包装基礎講座

透明蒸着フイルム

 
はじめに
 最近特に注目されている包装材は透明蒸着フイルムである。透明性、防湿性、ガス遮断性、香気保存性、耐レトルト性などに優れ、環境にも優しい理想的なフイルムとして脚光を浴びている。ダイオキシンや環境ホルモンの問題で敬遠されつつあるKコートフイルムの代替として、透明蒸着フイルムの使用実績は着実に増加している。そこで、透明蒸着フイルムとはどんなものか、果たして欠点はないのか、その全般的な知識について解説する。

透明蒸着フイルムとはどんなものか
 一般に包装用蒸着フイルムといえばアルミニウム蒸着を意味する。アルミニウム蒸着フイルムとは、アルミニウムを高真空状態で電子ビームや高周波誘導などによって加熱蒸発させ、その蒸気をフイルム表面に付着させたもので、美しい金属光沢を持ち、酸素遮断性、防湿性などのバリヤー性能に優れ、アルミホイルに次ぐバリヤー性フイルムとして、多くの実績がある。
 これに対して透明蒸着フイルムは、アルミニウムを蒸着する代わりにSiOx(酸化珪素---ガラスの成分と同じ.x=1~2)あるいはAl(酸化アルミ---アルミナ)を、アルミニウムの場合と同じように、真空で気化させ、フイルムの表面に付着させたものである。この場合、アルミ蒸着の金属光沢とは違って、透明な蒸着フイルムが得られる。SiOx蒸着(セラミック蒸着、シリカ蒸着などともいう)はわずかに褐色であるが、最近ではほとんど無色のものも登場している。Al蒸着品は全くの透明で、蒸着しているかどうか外観上は全く判別できない。現在本格的に使用されているフイルムはPET蒸着品だけである。今後はON、OPP、その他のフイルムへの応用が進むと考えられる。
 
表1 アルミ蒸着と透明蒸着の外観、性能比較

  アルミ蒸着 SiOx Al2O3
外観 金属光沢 無色透明 無色透明
クラックひび割れ やや起こりやすい 非常に起こりやすい 非常に起こりやすい
遮光性 優秀 なし なし
ガス遮断性 優秀 優秀 優秀
防湿性 優秀 優秀 優秀

 
 
透明蒸着フイルムの製造方法
 図1にアルミ蒸着も含めた基本的な蒸着装置の模式図を示した。

  多くの蒸着フイルムはPVD法(Physical Vapor Deposition 、物理蒸着法)で製造されている。前述したように、金属アルミ、セラミック、アルミナなどを真空中で加熱し、発生した蒸気をフイルムに付着させる方法である。
  PVD法以外の蒸着技術に、CVD法(Chemical Vapor Deposition、化学蒸着法)があり、一部のメーカーでPE-CVD(Plasma enhanced CVD)が採用されている。いずれの方法でも、透明性、バリヤー性など実用的な特徴は大きくは変わらない。
 
 
図1 蒸着装置の模式図(2室式)  
 
透明蒸着フイルムの特徴
 透明蒸着フイルムの特徴としては、
①ガスバリヤー性、防湿性に優れている。透明フイルムでは最もバランスのとれた、最も優れたバリヤー性能である
②保香性に優れる
③電子レンジが使用できる
④ボイル、レトルトが可能である(しかしPETフイルムに限られ、汎用からハイバリヤーがあり、グレードによってボイル、レトルト適性は異なる)
⑤包装後でも金属探知器が使用できる
⑥焼却しても有害ガスが発生しないし、残渣も少ないので環境保護的観点からも優れている
等である。
 一方、欠点としては、
①包装作業中や取扱中に、折り目、しわが発生すると蒸着膜にクラック(亀裂)が入り、バリヤー性が低下しやすい
②印刷、ラミネート、製袋などの工程が増えるに従って、クラックがひどくなり、バリヤー性が低下する
③蒸着膜の接着性が良くないので、使用する印刷インキや印刷面、接着剤などの選択が必要である
等が挙げられる。

透明蒸着フイルムの用途
 すでに使用されているものから、今後採用が考えられるものまで、用途例を列挙した。
(菓子)
 スナック菓子、半生菓子、高級菓子、商品寿命の長いガス充填包装菓子、脱酸素剤包装など
(嗜好品)
 コーヒー豆、インスタントコーヒー、紅茶、緑茶など
(水物)
 ボイル・レトルト食品、漬け物、佃煮、ハム、液タレ、カップフタ材、電子レンジ食品など
(乾燥食品)
  凍結乾燥食品、ふりかけ、 、香辛料など
(食品以外)
 トイレタリー商品、医薬品、入浴剤、シャンプー、化学薬品、除湿剤、 使い捨てカメラ外装、各種紙容器バリヤー材、その他

図2 バリヤー性分布早わかり図

透明蒸着フイルムの今後の課題
   透明蒸着フイルムの最大の欠点は、蒸着膜がひび割れる(クラック)ことによるバリヤー性の低下である。これを防止するために、蒸着面に樹脂コートしたものが開発されており、今後普及することが予想される。また、酸化アルミとセラミックの両方を蒸着することも行われている。
 現在実用化されているのは、ほとんどがPET蒸着品である。一部ON蒸着品も実用されているが、PETに比べて、吸湿によるクラック発生の問題が生じやすい。今後はOPPの透明蒸着品も実用化されてくるものと考えられるが、いずれの場合も、バリヤー性および加工適性の安定が課題である。

透明蒸着フイルムの二次加工
 透明蒸着フイルムを包装材として使用するためには、印刷、ラミネート、スリット、製袋などの工程を経るが、印刷では、過度のテンション(3%以下の伸びに抑えること)をかけたり、白インキの使用で、バリヤー性が低下することがある。ラミネートの接着剤にも相性があるので、最適なものを選択する必要がある。一般には、300℃付近の熱がかかる押出しラミネート(EL)よりも、ドライラミネート(DL)のほうが安定する。

透明蒸着フイルムの判別方法
 シリカ蒸着、酸化アルミ蒸着ともに、赤外分光々度計では検出できないので、フイルム構成分析のとき、蒸着していないフイルムとして判別される危険性があり、注意が必要である。