LECTURE

食品包装基礎講座

共押出しフイルム

はじめに

 共押出し(きょうおしだし、または、ともおしだしと読む、co-extrusion)フイルムというのは異種の樹脂を平行した2つ以上のスリットから共に押出し、製膜すると同時にラミネートまでされているというものである。単体ではフイルム状にできないような数μという薄いものでも最大5~7層まで積層可能なので、いろいろな性能・用途のフイルムがつくられている。共押出しフイルムには多くの種類があり、ドライラミネートなどのベースフイルムやシーラントに使用されるものもあるが、ここでは、製膜したそのままで使用できるチューブ状のフイルムと、単体で自動包装に使用できる共押出しフイルムを主体に説明する。十数年前から共押出し技術が注目されてきたが、爆発的に増加することはなかった。しかし、様々な高機能性共押フイルムが製造できるようになると同時に、フイルムユーザーや消費者の要求性能も多様化し、さらに、環境問題なども追い風になって、種類、量とも確実に増加している。

共押出しフイルムの製法
 軟包装用フイルムの製造を簡単に表現すると、溶融した樹脂を細いスリット状の隙間から押出して、冷却後巻取るものである。フイルムの基本性能は機械設備、樹脂の種類などに左右されるが、その間、臭気が少なく、透明性を良くし、均一な厚みにするための技術(ノウハウ)が必要となる。
 押出しダイスの形状により、Tダイ法(キャスト法)とインフレーション法がある。ダイスの押出し口が直線(フラット)状のものは、一枚のシートに製膜されて出てくる。これがTダイ法である。一方ダイスの形状が環状(サークル)の場合はチューブ状(筒状)の製膜となり、底シールとカットをするだけで袋になる。これがインフレーション法である。
 共押出しの場合、ダイの内部あるいは出口が数層に分かれており、それぞれの層から異種の樹脂(同じ樹脂の場合もある)が押出され、製膜と同時にラミネートされて出てくる。

 


図1.インフレーション法押出装置※
  

 
図1はインフレーション法による押出装置であるが、下から上にリング状ダイスから押し出された筒状の溶融樹脂は、空気を吹き込まれてきれいなチューブのまま冷却され、巻き取られる。量産性、厚み精度、透明性などでTダイ法より劣るとされているが、ねばりがあり、引裂強度や耐衝撃性に優れたフイルムを製造することができる。
 


図2.二層インフレーション用ダイ※


  図2は二層タイプ押出装置の溶融樹脂出口に当たるダイの部分である。ダイ内で溶融樹脂が積層するもの(上図左)と、ダイ外で接着するもの(上図右)があり、ダイ内で接着し、ダイ内での時間が長いほどよく接着する。

 


図3.Tダイ法フイルム製造装置※
 

 
図3はTダイ法のフイルム製造装置の全体図であるが、インフレーション法が下から上にふきあげるのに対して、Tダイでは上から下に向かって直線状スリットから押し出す。
 

図4.T型ダイスの一例ストレートマニホールド型※

 
  図4は単層T型ダイの一例で、ほかにコートハンガー型、フィッシュテール型などの形状がある。  
 
樹脂の種類と接着性
 基本的に溶融状態で接着性を持つ樹脂同士であれば接着強度の優れた共押出しフイルムができるが、一般には樹脂が違うと接着しないので、異樹脂の層間に両方の樹脂に接着性を持つ樹脂が接着剤(タイレイヤー)として押し出される。例えばNy(ナイロン)とLLDPEとを共押出しするにはNy/接着性樹脂/LLDPEという構成になる。同じポリオレフィンでもPPとPEでは接着性が悪い。例外としてNyとEVOHはよく接着する。接着性樹脂としてはEVA、アイオノマーPE、EAA、EMAA、各種変性樹脂などが使用される。なお、構成表記ではこれら接着性樹脂は省略されることが多い。

共押出し法と共押出しフイルムの長所・短所
(長所)
・ラミネート工程がいらない。
・小ロット製造、高機能フイルムを製造しやすく、 短納期が可能である。
・非常に薄い厚みで多層化が可能である。1層1μ 以下にもできる。
・残留溶剤の心配がない。
・無延伸の共押フイルムはしなやかで、内容品にフ ィットしやすく、深絞り包装にも適している。
(短所)
・共押出し用製造設備は複雑で、高価である。
・品質、特に厚み調整に技術がいる。
・樹脂交換時、押出し機やダイの洗浄に時間がかかる。
・押出しできる樹脂や十分に接着強度を持つ樹脂に 制限がある。
・共押出しの層と層の間に印刷などの加工はできない。表刷になる。
・フイルムの腰が弱い。
・紙、アルミ箔、蒸着フイルムの構成はできない。

共押出しフイルムの種類と用途
   チューブ状で使用するもの、フラット状単体で自動包装に使用するもの、ラミ用基材、ラミ用シール材、深絞り用、バリヤー性付与のものなど、実に多様であるが、その一部を示した。

(PP・PE系)
構成 特徴 主な用途
耐熱PP/特殊PP/特殊PP 低温シール 菓子パン包装
マットPP/PP/特殊PP マット調 パン、麺など
特殊PP/PE/EVA 耐寒性 モヤシ、ピーマン
耐熱PP/特殊PE/防曇PP 防曇性 青果物
特殊LLDPE/LLDPE 超耐寒性 冷凍食品
CoPP/PP/特殊PP 超低温シール ラミ用、野菜包装
PE/PP イージーピール PPトレー用フタ材
特殊PP/特殊PE/特殊PP 封筒貼、耐ピン 麺、青果物、繊維
(EVOH系)
構成 特徴 主な用途
PE/EVOH/PE 深絞、シール ラミ、味噌、生麺
PP/EVOH/PP 耐熱、腰 ラミ、畜肉
Ny/EVOH/LLDPEorEVA チューブ 畜肉、水産練り製品
PVC/Ny/EVOH/Ny/LLDPE 剛性、成型性 ハム等のボトム材
PE/Ny/EVOH/LLDPE 耐水、カール防止 チルドビーフ
EVOH/Ny/PE ラミ用 PETとラミで畜肉用
(PVDC系)
構成 特徴 主な用途
EVA/PVDC/EVA シール性 チルドビーフ収縮
OPP/PVDC/PP 延伸バリヤー KOP代替、単体・ラミ両用
PO/PVDC/PO 熱収縮性 チルドビーフ収縮
PVC/PVDC/EVA スキン性 生肉
(NY系)
構成 特徴 主な用途
Ny/EVA 低温シール 真空、肉、魚、漬物
Ny/Ny/LLDPE 柔軟性、強度 真空ボイル、重袋
Ny/Ny/PP 耐熱性、透明 レトルト
Ny/MXD/LLDPE バリヤー性 ボイル
Ny/MXD/PP 耐熱、バリヤー性 レトルト
LLDPE/Ny/LLDPE カール防止、耐水 深絞り、冷凍
(その他)
構成 特徴 主な用途
HIPS/HDPE 腰、成型性 カップ容器
GPPS/HIPS 腰、成型性 カップ容器
PVC/EVOH/PVC バリヤー性 畜肉等のボトム材
ON/EVOH/ON 延伸バリヤー ラミ基材、脱酸素剤、ガス充填
ON/MXD/ON 延伸バリヤー ラミ基材、レトルト、ボイル
PP/OPP/PP 両面シール MST代替、オーバーラップ
OPP/PP 延伸フイルム OPP/CPPラミ代替
OPP/EVOH/OPP
延伸バリヤー ラミ基材、KOP代替

PP:ポリプロピレン

OPP:二軸延伸PP
KOP:PVDCコートOPP
PE:ポリエチレン
LLDPE:直鎖状ポリエチレン
EVA:エチレン酢ビ共重合樹脂(PE系)
Ny:ナイロン
ON:二軸延伸ナイロン
EVOH:エチレン酢ビ共重合体ケン化物(バリヤー材)
MXD:バリヤー性ナイロン系樹脂(バリヤー材)
PVC:ポリ塩化ビニル
PVDC:ポリ塩化ビニリデン(バリヤー材)
HIPS、GPPS:ポリスチレン 

 
※図1~図4参考文献
「食品包装用フイルム」-フレキシブル包装のすべて- 大須賀 弘著 日報