LECTURE

食品包装基礎講座

水分活性とカビの生育

 
<水分活性(Aw)について>
 食品を保存する場合、その食品が腐敗するのか、カビが生えるのか、あるいは、吸湿するのか、乾燥するのかなどを判断するのに、水分活性(Water Activity-Aw)という数値を用いることが多い。食品の腐敗防止、あるいは、防湿包装を考えるときどうしても必要となるデータである。
 食品を容器に入れて密封すると、食品中の水分が蒸発して容器内の空間に充満し、ついには平衡に達する。この時の密封容器内の水蒸気圧をP、食品を水と置きかえたときの水蒸気圧、つまりその温度における飽和水蒸気圧をP0とすると水分活性AwはP/P0で表される。この値は食品が水である場合にはP=P0となり、Awは1に等しくなる。しかし、一般の食品は水分以外の成分も含んでいるのでPはP0より小さくなり、P/P0すなわちAwは1より小さな値を示すことになる。わかりやすく言えば、水分活性に100をかければ食品を密封した場合の容器内の関係湿度(%RH)になる。この容器内湿度が食品の保存性に密接に関係してくる。
 食品の水分活性(Aw)=P/P0
 P :容器内空間の水蒸気圧
 P0:容器内空間の飽和水蒸気圧

 含水率(水分含有率)というのは食品中に含まれる水分を重量%で表したもので、含水率40%というのは、食品100g中に水分が40g含まれていることである。
 食品中の水分は、食品中に存在する形態から、結合水、溶解水、自由水の3つに分類される。結合水は食品成分と化学的に結合しており、一般の乾燥法では蒸発せず、また-30℃付近にならないと凍結もしない。マイナス数十度という厳寒地方でも植物が凍らないで生存できるのはこの結合水のおかげである。溶解水は食品中の可溶成分が溶存しており、その結合力は結合水よりも弱い。自由水は、食品との結合力は非常に弱く、食品表面の空隙にしみこんでいる水分が多く、また簡単に蒸発することができる。食品に自由水が存在するようになると、含水量は変動しても容器内湿度は大きく変化しない。容器内に水を封入した場合、水の量が多くても少なくても、液体として存在している限りは容器中の空間の湿度は常に飽和状態になっていることと同じである。
 食品の平衡水分曲線を測定すると水分の状態がわかりやすくなる。平衡水分曲線とは食品を各湿度の環境に保存し、水分が一定になったところの含水率を縦軸に、関係湿度を横軸にプロットしてグラフにしたもので、模式図を下に示した。0からaまでが結合水、aからbまでが溶解水、bから上が自由水である。この曲線からは食品の表面積、成分組成、保存性なども予想できる。

 

 
 微生物は結合水やほとんどの溶解水を利用することができない。そこで増殖は自由水の存在に大きく影響される。含水率がひくくても自由水の比率が多ければ生育する。逆に含水率が高くても、自由水がなければ増殖することができない。自由水が多いということは水分活性が非常に高いことになり、したがって、微生物の増殖のしやすさを表現するのに含水率よりも水分活性を用いる方が適切である。たとえば、砂糖や食塩を多く含む食品が腐敗しにくいのは、含水率が比較的高くても、水分活性の値が小さいからである。微生物が繁殖できる水分活性の目安として、細菌の場合は0.94~0.99、酵母は最低0.88以上、カビは0.80以上である。
 ある食品の水分活性を測定し、Aw=0.8以上であればカビが発生する可能性が高く、Aw=0.88以上であれば酵母による発酵の心配もあり、脱酸素剤やガス充填で酸素を取り除いても悪変を防止できなくなる。0.94以上であれば細菌による腐敗の危険性も出てくる。保存性を考える上で、まず、その食品の水分活性を知ることが第一歩である。
<カビの種類と性質>
 微生物は、人間が意識的に無菌の状態をつくらない限り、空気中、水中、土譲、食品表面や内部などいたるとこるに存在する。腐敗に関係する微生物の種類は多種多様で、それらの働きを左右する因子はまた複雑である。カビに限定しても全く同じである。微生物の働きを規制する因子としては、水分、温度、酸素、水素イオン濃度、浸透圧などがある。

<カビの種類>
 最近はカビによる害がよく研究され、特に発ガン性を持ったカビ毒(マイコトキシン)をつくり出す種類も数多くあることがわかってきて、食品衛生上大きな問題になっている。それだけに食品メーカーにとって防カビ対策は何に増しても大きな課題なのである。カビは3μ程度の厚さの菌糸を持って栄養増殖を行い、後に胞子を生ずるものが多い。カビの種類は非常に多く、代表的なものをつぎに示す。

●クラドスポリウム属(Cladosporium)
  厚いビロード状の暗色集落をつくり、土壌、空気中に広く分布する。モモ、ビワなどの果実、野菜、穀物、カステラ、もなか、ようかんなどの菓子類、バター、チーズ、練乳などの乳製品によく生える。また食品工場内では天井、壁に付着していることが多い。
●アスペルギルス属(Aspergillus)
  こうじカビのことで、発酵に用いるコウジ菌とは形態的に類似し、いわば野生のコウジである。アスペルギルス属には日本酒、しょうゆ、みそなどの醸造に用いられる有用菌も多いが、恐ろしいカビ毒をつくりだす菌も多く存在する。たとえば、A.flavusという菌はうぐいす色の集落となり、発ガン性カビ毒のアフラトキシンを生産する有害菌である。醸造に用いられるA.oryzaeはカビ毒を生産しないことが確認されている。集落の色はまちまちだが、緑のきれいなカビが多い。土壌、農作物、加工食品、工業製品、空気中などに広く常在している。生菓子では水ようかん、大福もち、まんじゅう、カステラなどによく生える。
●ペニシリウム属(Penicillium)
  ペニシリウム属は、ペニシリンの生産、チーズやサラミソーセージの熟成に用いられる種類もあり、種々の食品の変質、腐敗に関与する代表的なカビでもある。青かびとして知られ、自然界に広く分布し、野菜、果実、貯蔵米、もち、パン、めん、煮豆、あん、生菓子、液糖、氷果、ジャム、水産ねり製品、さきいか、卵、乳製品など多くの食品に生えやすく、冷蔵庫、食品工場の空気中に広く常在している。特に酸性の生菓子、例えばもなかやレモンケーキなどに生えやすい。集落の色調はほとんどが緑系(青緑、灰緑、黄緑、暗緑など)である。
●カヌテラリア属(Catenularia)
  好浸透圧性のカビで、チョコレート色の集落が特徴である。もなか、ようかん、加糖練乳、もち菓子等に生えやすい。集落の表面は褐色ビロード状である。生育速度は小さい。
●ムコール属(Mucor)
  ケカビとよばれるカビで、毛髪状に生育することから、この名前がある。土壌中に存在し、野菜、果実についていることが多い。また、もち、パン、卵、乳製品、冷蔵肉などの多水分食品に生えやすい。水分が多いと生育が非常に速い。集落は灰色~黒色で、低温でもよく生育する種類が多い。
●リゾープス属(Rhizopus)
  クモノスカビ。白い綿状集落と黒い胞子塊を形成する。ムコールと同じく、生育が非常に早い。野菜、果実、パン、めん、冷蔵肉、卵、乳製品、べーコンなど、水分の多い食品によく生える。

<カビの生育条件>
  カビの生育条件としては微生物の中で最も水分が少なくて生育ができ、一般に湿度80%RH以上、水分にして15%以上である。しかし、カビの種類によって要求水分量が違い、湿度が低くなるにしたがってこうじカビが殆んどを占めるようになる。中には湿度が62~63%RH、水分にして13~14%でも生育するものもある。したがって食品の水分含量が10%近く、あるいはそれ以下だとカビが生える心配はない。またカビは澱粉質の食品に繁殖しやすく、米、小麦、あるいはこれらの加工食品は、普通は、平衡水分が13.5~15.5%であるから高温多湿の空気中に放置しておくとカビが繁殖する。乾燥米菓などは水分が4~8%であるから心配はないが、吸湿して水分が13~14%となるカビが発生するようになる。しかし、カビの発生するまでに、吸湿により商品価値は失われる。また、パン、カステラ、生菓子などは水分が30%付近にあり非常にカビが発生しやすい。つぎに、最適温度は25~30℃で、15℃以下あるいは40℃以上になると増殖率は低下する。しかし、家庭用冷蔵庫(0~5℃)でも増殖の速度は小さいが繁殖する。耐熱性は60℃までで、60℃では10分から15分程度で死滅するが、ある種のものは胞子をつくり耐熱性があるため、殺菌するのが非常に困難である。通常の菌の胞子で100℃、5分間に耐えれるものはざらにある。
 カビは酸素がなければ生育できない。酸素濃度を1%以下にまで下げると生育は著しく抑制され、0.1%では少数の限られた菌種のみがわずかに生育できるだけである。したがって、酸素濃度1%以下にすれば安心できる。また、二酸化炭素には静菌作用があり、二酸化炭素が50%以上で一般のカビはほとんど生育できない。水分活性が低ければ30%でも発育が阻害される。カビの生育可能PHは1~11で、一般にはPH5~6においてよく生育する。カビの胞子の発芽はPH3~7の間で行われる。

<包装によるカビ防止方法>
①脱酸素剤で容器内酸素を除去する。
②二酸化炭酸、または、窒素ガスとの混合ガスによるガス充填包装。窒素ガス100%でのガス充填包装はカビ防止効果の持続性が低い。
③包装後に約200℃での乾熱で食品表面のカビを殺菌する。紫外線やマイクロウェーブで殺菌する方法もあるが、表面や内部を均一に殺菌することがむつかしく、使用例は少ない。
④AITの静菌作用を利用したカラシード、エチルアルコールの殺菌力を利用したアルコール製剤(アンチモールドなど)を封入する。