LECTURE

食品包装基礎講座

食中毒とその防止

 
・知っておきたい食中毒菌の種類
・細菌性食中毒を起こしやすい食品の例
・食中毒防止のポイント
 

 
   生きた微生物またはその産生した毒素を含む食物を摂取することによって起きる急性胃腸炎を、細菌性食中毒という。細菌性食中毒は、6月から、夏をピークに、秋口の10月まで高い発生率を示している。最近では冬にでも食中毒が発生することがしばしばあり、季節を問わず油断できない。
<知っておきたい食中毒菌の種類>
 食中毒菌は、2年前(平成8年夏)に大騒ぎになったO-157だけではない。腸炎ビブリオ、サルモネラ菌、その他の食中毒菌によるによる中毒もたくさん発生している。以下、これら食中毒菌について解説し、どうすれば食中毒を防ぐことができるかを考えてみる。
 食中毒にかかると、一般にはおう吐、下痢、腹痛、頭痛、発熱などの症状をあらわし、そのほとんどは数日で回復に向かうが、O-157に代表されるように、生命にかかわることもあることを認識しなければならない。

[病原性大腸菌]
 大腸菌は人の腸内、食品、河川水などの自然界に広く存在する。このうち、激しい下痢などの腸炎を起こすものを病原性大腸菌といっている。この菌で中毒を起こす場合、糞尿に由来することが多い。また、肉類、乳製品、水、貝類なども発生原因となることが多く、要注意である。大腸菌「O-157」はベロ毒素と呼ばれる強い毒素をつくる代表的な病原性大腸菌で、皮膚感染や空気感染はないが、経口感染による伝染性が強い。「感染者を隔離しない伝染病」に指定されている。非常に少ない菌数でも発病し、治癒しにくいのが特徴である。サルモネラ菌は100万個以上口から入らなければ発病しないが、O-157は100~1000個で発病する。また、他の多くの食中毒菌も同じであるが、37℃付近で増殖速度が最も大きく、培地などの条件がそろえば20分で分裂し、倍々となる。潜伏期間は1~14日(通常3~8日)、症状は腹痛、水様性下痢で、出血性になることもある。回復に向かっていても溶血性尿毒症性症候群(HUS)を発症する危険性もあるので、完全回復するまで治療が必要となる。
 なお、O-157ほど毒性は強くはないが、やはり中毒性をもつO-1(ベロ毒素産生量はO-157より少ない)、O-44(毒素はつくらない、急性胃腸炎を起こす)、O-169(毒素型)による食中毒も発生する。

[腸炎ビブリオ]
   この細菌による食中毒発生件数は日本で一番多く、食中毒原因菌の代表である。
  腸炎ビブリオは微好塩細菌で、海水とほぼ同じ塩分(3%前後)の環境で発育増殖し、淡水では死滅する。熱や酸に対しても弱く5℃以下の低温では増殖しにくい。腐敗菌の一般細菌よりも増殖は早く、10分たらずで分裂し、理論上、至適条件下では、1個の腸炎ビブリオ菌が6時間後には、687億1,947万6,736個にも増殖する。
  腸炎ビブリオによる食中毒を起こしやすい食品として代表的なものに魚介類(潜伏期間は約16時間で胃の激痛とともに水様性の下痢があり、時には血便を見る。)がある。

[サルモネラ菌]
 近年特に増加傾向にあるのがこのサルモネラ菌による食中毒である。この細菌は、最適温度は37℃、最高温度44-47℃、最低温度は5.2℃で、冷蔵庫でも増殖が可能なので安心できない。
 家畜、鳥、ねこ、ねずみ、はえ、ごきぶり、ミドリガメ等の動物がよく保有しており、食肉や卵が汚染されやすい。人の手、糞尿からの汚染が多く、潜伏時間は約12時間~24時間で、頭痛、発熱(38~39℃)、腹痛、下痢、おう吐があり、風邪と間違えられることがある。
 中毒を起こしやすい食品は獣肉、鳥肉、未殺菌の卵製品、手作りケーキ、マヨネーズなどである。

[ブドウ球菌]
 この細菌は、手指の化のう傷、おでき、水虫のくずれ、にきびなどに、また、健康な人ののどや鼻の中にもかなりの確率で存在する。増殖する時にエンテロトキシンという毒素を産生する。この毒素は熱に強く(100℃、60分または120℃10分)、通常の加熱方法では分解しないので、加熱処理によっても危険性は変わらない。潜伏期間は1~6時間で、激しいおう吐と腹痛、下痢がみられる。
 中毒を起こしやすい食品は卵加工品、ひき肉製品、乳製品、米飯食品、弁当など広範囲である。

[カンピロバクター]
 最近増加傾向にある食中毒菌で、酸素3~15%の雰囲気で増殖する。基本的には嫌気性で、酸素が十分あると死滅する。鶏肉の汚染度が比較的高い。犬、猫、ウシ、ブタなども感染源になりやすい。これらの便や汚水などから人にも感染する。腹痛、発熱を起こし、下痢を伴うこともある。肉、バーベキューなどが原因となることが多い。C.jejuni、C.coliが病原性をもつ。

[ボツリヌス菌]
 土壌に広く分布し、ボツリヌス菌の産生毒素によ
る中毒は死亡率が高く、毒素耳掻き1杯で1000人も死ぬほど強く、神経系の麻痺をともなうことが
特徴である。九州で発生した芥子レンコン中毒で多くの死者を出したことがある。菌自体は低温でも増殖する。菌は耐熱性をもち、殺菌は120℃、4分以上の加熱を必要とするが、毒素は熱に破壊されやすく、80℃、30分間の煮沸によって分解する。海産物、サンマのいずし、ハムなどで中毒例がある。偏性嫌気性菌(酸素のない状態でのみ増殖する)なので、殺菌不十分な真空パック、缶・瓶詰などは要注意である。

[ウェルシュ菌]
 グラム陽性の偏性嫌気性有胞子細菌で、糞便、土、水中などに広く存在する。腸内で毒素(エンテロトキシン)を産生し、学校給食などの集団発生が多い。エンテロトキシンの耐熱性は60℃、4分間で半減するが、菌自体は100℃でも死なないものもある。軽い腹痛程度ですむことが多いが、下痢やおなかのつっぱり感なども出ることがある。

[セレウス菌]
   毒素エンテロトキシンによって中毒を起こす。土壌や植物に広く分布し、米、とうふ、麺類などに存在することがあり、獣鳥肉、デザート類、魚類などからも検出される。潜在期間は平均10時間で、腹痛、下痢が主な症状である。

[エルシニア・エンテロコリチカ]
 下痢や嘔吐を特徴とするエルシニア症を引き起こす。豚肉の汚染が多く、乳製品、野菜、ペット類のイヌ、ネコなどが汚染源になることもある。0~5℃でも増殖するので冷蔵でも長期間はおかない方がよい。右下腹部痛が特徴的である。

[ナグビブリオ] 
   ビブリオ属コレラ菌の1種であるが、抗血清と反応しないのでナグ(NAG)と呼ばれる。コレラの潜在地に多く存在するが、最近は日本でも多くなった。輸入生鮮食品、汽水域にすむ魚貝類、エビ、カキの生食などで感染しやすい。症状は軽いが、下痢(水様、粘血)、嘔吐がみられる。一般には発熱はない。潜伏期間は20時間くらいである。

[リステリア・モノサイトジェラス]
  この菌は、ソフトチーズ、未殺菌乳、輸入水産食品、冷凍の加熱調理済みの蟹肉、加熱調理済みのエビ、加熱調理済みのすり身(カニかまぼこ)に発見されている。生やよく加熱されていない食肉、鳥肉、野菜も汚染されやすい。  リステリアは他の微生物よりも熱、塩分、硝酸塩、酸に抵抗性があり、低温でも生存、増殖できる。  妊婦、新生児、免疫の弱った成人にとって重篤な疾病であるリステリア症の原因菌である。  ほとんどは食後48時間から72時間後に発症し、熱、頭痛、吐き気、嘔吐などの症状がある。

[ビブリオブルニフィカス]  
  沿岸の海水中に存在し、汚染された魚貝類の摂取により感染する。突然発症し、悪寒、熱、虚脱などを引き起こす。肝臓障害のある人、胃酸過小、免疫系の弱い人の死亡率は高い。朝日新聞(12/5/19夕刊1面)で恐ろしい”人食い菌”として掲載された。

[トキソプラズマ]
  中心神経系不全、特に小児における精神薄弱や視力障害などの非常に重篤な疾患であるトキソプラズマ症の原因菌。食肉、特にブタ肉が汚染源になりやすい。

[赤痢菌]
  衛生状態が悪いと、赤痢菌が人から人へ移りやすい。サラダ、牛乳、乳製品、不衛生な水、牛乳、乳製品、鳥肉、ポテトサラダに存在する。保菌者が手をよく洗わずに食品に触れ、その後十分に加熱されない食品を取り扱った場合に食物が汚染される。室温に放置された食品中で増殖する。  食後1日から7日で発症する。症状としては腹痛、下痢、発熱があり、時に嘔吐や糞便中に血液、膿、粘液が見られることもある。

[赤痢アメーバ]原生動物(原虫)
  人の腸管内に存在しており、糞便から排出される。汚染された水や汚染された土壌で育った野菜が感染を拡散する。接触後3日から10日後に発症する。症状はさしこみによる激痛、小腸や肝臓あたりが痛い、朝でる便がやわらかい、頻繁な下痢、体重減少、疲労感、貧血になる場合もある。

[ランブル鞭毛虫] 原生動物<(原虫)
   汚染された水を飲んだ場合に最も頻繁に感染する。成育中に汚染され加熱されない食品によって、もしくは調理加熱後感染している者によって食品汚染が発生する。低温高湿条件を好む。1日から3日で発症する。症状としては水便、さしこみ痛、食欲不振、吐き気、嘔吐などがある。ハイカー、小児、旅行者、入院患者が特に感染しやすい。

[A型肝炎ウイルス]
  軟体類(牡蛎、あさり、ムイガイ、ホタテ、ザルガイ)は生息する海域が未処理の下水によって汚染されると媒介(キャリア)となる。生の貝類は特に加熱によっても必ずしもウィルスが死滅しないので、最も有力なキャリアである。倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐、熱から始まる。3日から10日で黄疸がでて、尿が黒っぽくなりはじめる。重篤な場合には肝臓障害や死に至る場合もある。

 

食中毒の種類と食中毒菌の特徴
中毒菌 タイプ 潜伏期間 主な症状 増殖最適温度℃ 耐熱性(湿熱)
サルモネラ菌  感染型  12-24時間  吐き気、嘔吐、頭痛、発熱、腹痛、下痢 37  60℃、30分
腸炎ビブリオ  感染型  12-24時間  吐き気、発熱、腹痛、下痢 35-37  60℃、20分
ブドウ球菌  毒素型  1-6時間  吐き気、嘔吐、腹痛、下痢 35  60℃、30分
ボツリヌス菌  毒素型  12-36時間  嚥下困難、複視、失声、便秘、呼吸困難  37 120℃、4分 
ウェルシュ菌  毒素型  10-12時間  吐き気、嘔吐、腹痛、下痢 43-47 100℃、30分 
セレウス菌  毒素型  8-16時間  吐き気、腹痛、下痢、発熱 37  100℃、30分
病原性大腸菌  毒素型  3-5日  腸炎、下痢、血便 37  70℃、1分
カンピロバクター  感染毒素   2-4日  腹痛、下痢、発熱 30-42  70℃、1分
エルシニア  感染型  2-5日  腹痛、下痢 28-29  70℃、1分

 
<細菌性食中毒を起こしやすい食品の例>
△魚介類とその加工品
 たこ、かに、ばか貝、平貝、赤貝、まぐろ、あじ、いかのさしみ、さつまあげ、つみれ、かき(冬季)
△野菜とその加工品
きゅうりの塩もみ、きゅうりの一夜漬
△穀類とその加工品
 にぎりめし、うぐいす豆、冷やっこ、生あげ
△肉類および卵類
 とり肉、もつ、ひき肉製品(メンチカツ、ハンバーグ等)、たまご焼、自家製造マヨネーズ
△複合調理食品
 サラダ(ポテトサラダ、マカロニサラダ等)
△菓子類
和生菓子(あんつきだんご、おはぎ、柏餅等)、洋生菓子(カスタードクリーム製品)
△その他
 仕出し弁当、折詰弁当、折詰料理、会食料理
<食中毒防止のポイント>
 食中毒を出さないための、食品製造現場における注意点を列挙した。
・食品加工作業所は密閉構造が基本で、扉や窓は開放しない。
・服装、帽子、手袋は清潔なものを着用する。
・爪、髪の毛は短く切り、清潔にしておく。
・始業時、休憩後など作業所に入る前にはせっけん、クレゾールで手洗いを励行。
・適当な殺菌剤(70%アルコール、クレゾール液、 塩素系漂白剤、逆性せっけんなど)を活用する。
・トイレ後も流水、洗剤使用による手洗を励行する。
・作業所区域外、作業所内、トイレなどでは履き物は区別する。
・原材料、製品、包装フイルム、機械設備にはむやみに手を触れない。
・食中毒菌は、空気中、機材表面、食品および食品材料の表面、人や動物の内部や表面には必ず付着 しているものと考えておくこと。
・ほとんどの食中毒菌は37℃付近ではあっという間に増殖する。この温度付近に長く放置しない。
・多くの食中毒菌は70℃以上の加熱で死滅する。加熱殺菌を有効に利用すること。しかし、毒素を 産生するものは加熱しても無毒にはならないこともある。
・危険な原材料は短時間でも冷蔵(5℃以下)する。
・加熱後の材料および製品は二次汚染に注意しながら速やかに処理すること。
・生肉、生魚などを扱ったまな板、包丁、ふきんをそのまま野菜など生で食するものに使わない。
・冷蔵庫、冷凍庫も定期的に整理、消毒用アルコールなどによる除菌・殺菌を実施する。
・きれいに見えても「清潔」、「衛生的」であるとは限らない。

(参考にしたホームページ)
 http://www.mhlw.go.jp/index.html(厚生労働省)
 http://www.foodsafety.gov/(米国FDA)