LECTURE

食品包装基礎講座

HACCPと食品衛生法

 
はじめに
   HACCPとは「Hazard Analysis and Critical Control Point」の略で、日本では「危害分析・重要管理点」と訳され、ハセップ、ハサップ、hassipなどと発音する。もともとはアメリカ・NASAの宇宙飛行士が、食中毒等、食品に起因するトラブルに遭遇しないようにと考えられたシステムで、アメリカではすでに食肉および食肉製品、水産食品の衛生管理にHACCPが法的に取り入れられている。ヨーロッパでも、日本からの水産食品がHACCPに合致していないとして輸入禁止になったこともある(1995年3月)。
  このように、HACCPは、現在考えられる最も合理的で確実性がある衛生管理法として、国際的に認められている。我が国ではO-157中毒事件をきっかけに注目され、一般にもよく知られるようになった。現在、食品衛生法では、定められた食品についてHACCPの手法を基本とする任意の食品製造承認制度がある。また、水産加工でも、食品衛生法による法制化はまだないものの、HACCPおよび証明システムの導入が推進されつつある。
  しかし、HACCPという言葉は耳にするが、どんなものかよくわからないという質問があるので、HACCPの概要と、食品衛生法による承認制度について説明する。

HACCPとはどんなシステムか
   HACCPを一言で説明すると次のようになる。
   従来の、最終製品の検査や場当たり的なチェックといった衛生管理とは異なり、食品の製造において、原材料から最終製品に至る一連の工程が管理の対象になり、どこの工程でどのような危害が発生するかをあらかじめチェックし、それを防止するための監視、管理基準を定め、すぐに確認できる方法で測定、記録し、得られた結果について即刻対処できるように手順を定めるもので、衛生的で安全な食品を製造し、消費されるための衛生管理システムである。
   衛生管理を行う手順は、誰でもわかるようにマニュアルにまとめ、マニュアルに従って実行したことは必ず記録に残すことが基本となっている。
  HACCP方式の導入に際しては、一般には、1993年FAO/WHOのCODEC(食品規格)委員会がHACCPガイドラインとして推奨している、次図の手順に従って行われる。特に手順6(原則1)から手順12(原則7)は必ず盛り込まなくてはならないことになっている。

 

手順 1
手順 2
手順 3
手順 4
手順 5
手順 6
手順 7
手順 8
手順 9
手順10
手順11
手順12
HACCPチームの編成(組織)
製品の記述
意図される使用方法の確認
製造工程一覧図、施設の図面および標準作業手順書の作成
手順4の文書などの現場での確認
(原則1)危害分析(HA)
(原則2)重要管理点(CCP)の設定
(原則3)管理基準の設定
(原則4)モニタリング方法の設定
(原則5)改善措置の設定
(原則6)検証方法の設定
(原則7)記録の維持、管理方法の設定

 
図:HACCP導入の12手順と7原則     手順1から5までは手順6(原則1)のための事前準備と情報収集のための活動である。
  原則1の危害分析とは、各段階で起こりうる生物的、化学的、物理的危害を予測し、防止対策を考えることである。
 原則2は、原則1で分析した危害のうち、特に重要なポイントについて重要管理点(CCP)を設定する。  原則3では、CCPにおいて、どういう条件を管理するかの基準を定める。例えばハンバーグでO-157に汚染されていないことを証明するためには、微生物試験ではすぐには結果が出ないので、殺菌温度、殺菌時間、ハンバーグの大きさなどがO-157非汚染のための管理基準となる。  原則4では管理基準で定めた項目を測定するための方法、頻度等を定める。  原則5では、モニタリングすることによって、管理基準を逸脱した場合、その原因追求と改善措置をあらかじめ決めておく。  原則6では、HACCPでの衛生管理が正常に機能しているかどうかの検証方法を設定する。検証者、方法、頻度、結果の記録などもプランに含める。  原則7は、今までに決めたこと、実施してきたことを記録し、保存することによって、検証等に活用できるだけでなく、HACCPを適切に実施し、衛生上安全な食品を製造してきたことの証明になる。
 以上の手順については、欠点がないようにかなり細かく計画するために、専門家のアドバイスが必要になることが多い。次に述べる食品衛生法での承認制度では厚生省、都道府県などによる講習会や、食品衛生指導員による指導、相談などの制度が整備されているので利用できる。

HACCPと食品衛生法
   食品衛生法でも、1995年から、第7条の3で、HACCPの手法を導入した「総合衛生管理製造過程」を定め、この衛生管理を行っている事業所の任意承認制度を実施している。ただし、本来のHACCPは農場から食卓まで(from farm to table)の危機管理を目指しているのに対し、食品衛生法では主として原材料の入荷から製造工程、出荷までのHACCPにとどまっている。以下、関係する条文(抜粋)を紹介する。水産食品、飲料水なども対象になる予定で、やがては多くの食品で必須条件(強制法)になると考えられるので、よく理解しておく必要がある。
[総合衛生管理製造過程]

食品衛生法 第7条の3  
   厚生大臣は、第7条第1項[食品又は添加物の製造等の基準及び成分の規格]の規定により製造又は加工の方法の基準が定められた食品であって政令[令第1条第1項]で定めるものにつき、総合衛生管理製造過程(製造又は加工の方法及びその衛生管理の方法につき食品衛生上の危害の発生を防止するための措置が総合的に講じられた製造又は加工の過程をいう。以下同じ。)を経てこれを製造し、又は加工しようとする者(外国において製造し、又は加工しようとする者を含む 。)から申請があったときは、製造し、又は加工しようとする食品の種類及び製造又は加工の施設ごとに、その総合衛生管理製造過程を経て製造し、又は加工することについての承認を与えることができる。
② 厚生大臣は、前項の申請に係る総合衛生管理製造過程の製造又は加工の方法及びその衛生管理の方法が、厚生省令[規第4条]で定める基準に適合しないときは、同項の承認を与えない。

[食品衛生法第7条の3の承認]

食品衛生法施行令 第1条
 
  
食品衛生法(以下「法」という。)第7条の3第1項の政令で定められる食品は、次のとおりとする。
一 牛乳、山羊乳、脱脂乳及び加工乳
二 クリーム、アイスクリーム、無糖練乳、無糖脱脂練乳、発酵乳、乳酸菌飲料及び乳飲料
三 食肉製品(ハム、ソーセージ、ベーコンその他これらに類するものをいう。第4条の2において同じ。)
四 魚肉練り製品(魚肉ハム、魚肉ソーセージ、鯨肉ベーコ ンその他これらに類するものを含む。第1条の5第1項第 1号へにおいて同じ。)
五 容器包装詰加圧加熱殺菌食品(食品(前各号に掲げる食品、清涼飲料水及び       鯨 肉製品(鯨肉ベーコンを除く。)を除く。)であって、気密性のある容器包装に入れ、密封した後、加圧加熱殺菌したものをいう。)

[総合衛生管理製造過程承認の基準]

  食品衛生法施行規則 第4条
  
法第7条の3第2項(同条第4項において準用する場合を含む。)の厚生省令で定める基準は、次のとおりとする。
一 製品の総合衛生管理製造過程につき、次に掲げる文書が作成されていること。
    イ 製品の名称及び種類、原材料その他必要な事項を記載 した製品説明書
    ロ 製造又は加工に用いる機械器具の性能その他必要な事項を記載した製造又        は加工の工程に関する文書
   ハ 設備施設の構造、製品等の移動の経路その他必要な事項を記載した施設の図面
二 製品の総合衛生管理製造過程につき、次に掲げるところにより定められた事項を  記載した文書が作成されていること。
   イ 製品につき発生するおそれのあるすべての食品衛生上の危害について、当該危害の原因となる物質及び当該危害が発生するおそれのある工程ごとに、当該危害の発生を防止するための措置を定めるとともに、当該措置に係る物質が別表第2の2の上欄に掲げる食品につきそれぞれ同表の下欄に掲げる危害の原因となる物質を含まない場合にあっては、その理由を明らかにすること。
   ロ イの措置のうち、製品に係る食品衛生上の危害の発生を防止するため、その実施状況の連続的な又は相当の頻度の確認を必要とするものを定めること。
   ハ ロの確認の方法を定めること。
三 前号のロの確認により同号ロの措置が適切に講じられていないと認められたときに講ずるべき改善措置の方法を記載した文書が作成されていること。
四 製品の総合衛生管理製造過程に係る衛生管理の方法につき、施設設備の衛生管  理、従事者の衛生教育その他必要な事項に関する方法を記載した文書が作成さ  れていること。
五 製品の総合衛生管理製造過程につき、製品等の試験の方法その他の食品衛生上  の危害の発生が適切に防止されていることを検証するための方法を記載した文書  が作成されていること。
六 次に掲げる事項について、その記録の方法並びに当該記録の保存の方法及び期  間を記載した文書が作成されていること。
   イ 第2号ロの確認に関する事項
   ロ 第3号の改善措置に関する事項
   ハ 第4号の衛生管理の方法に関する事項
   ニ 前号の検証に関する事項
七 製品の総合衛生管理製造過程につき、次に掲げる業務(次号に規定する業務を除   く。)を自ら行い、又は業務の内容に応じてあらかじめ指定した者に行わせる者が置かれていること。
   イ 第2号ロの措置及び確認が適切になされていることを点検し、その記録を作        成すること。
   ロ 第2号ロの確認に用いる機械器具の保守管理(計器の校正を含む。)を行い、その記録を作成すること。
   ハ その他必要な業務
八 第5号の検証につき、次に掲げる業務を自ら行い、又は業務の内容に応じてあらかじめ指定した者に行わせる者が置かれていること。
   イ 製品等の試験を行うこと。
   ロ イの試験に用いる機械器具の保守管理(計器の校正を含む。)を行い、その記録を作成すること。
   ハ その他の必要な業務
  なお、乳及び乳製品の総合衛生管理製造過程については「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」別表3で定められているが、内容はほぼ同じなので、ここでは省略する。   以上の条文を詳しくみることによって、食品衛生法によるHACCP承認のための食品の種類、準備や実施すべきこと、必要文書等がわかってくるが、下に示す通達や文献には、承認制度の実施要領と実務がわかりやすく示されているので参考になる。
(参考文献)

・「総合衛生管理製造過程に係る承認について」(平成8年9月30日衛乳第223号)
・「総合衛生管理製造過程の承認とHACCPシステムについて」(平成8年10月22日   衛食第262号衛乳第240号)
・「HACCP:衛生管理計画の作成と実践」監修:厚生省生活衛生局乳肉衛生課 編集:動 物性食品のHACCP研究班
  出版:中央法規
(ほかに総集編、データ編、魚肉ねり製品実践編あり)
(別表第2の2)
 

  食肉製品 魚肉練り製品 レトルト食品(注1)
アニサキス    
アフラトキシン ○注2 ○注2 ○注2
異物
黄色ブドウ球菌
カンピロバクター・ジュジュニ及びカンピロバクター・コリ    
クロストリジウム属菌
下痢性又は麻痺性の貝毒注2     ○注3
抗生物質及びその他の化学的合成品たる抗菌性物質   ○注4
殺菌剤
重金属及びその化合物     ○注5
サルモネラ菌  
シュードテラノーバ    
セレウス菌
洗浄剤
旋毛虫    
大複殖門条虫    
腸炎ビブリオ ○注6  
添加物 ○注7 ○注7 ○注7
ヒスタミン   ○注8 ○注8
内寄生虫用剤及びホルモン剤 ○注9   ○注10
農薬     ○注10
病原大腸菌  
腐敗微生物

 
注1 容器包装加圧加熱殺菌食品
注2 香辛料を原材料として用いる場合に限る。
注3 貝類又はその加工品を原材料として用いる場合に限る
注4 抗生物質以外の化学的合成品たる抗菌性物質にあっては、乳等(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令に規定する乳等をいう。)又は食肉、食鳥卵若しくは魚介類若しくはそれらの加工品を原材料として用いる場合に限る。)
注5 原材料として用いる食品について、法第7条第1項の規定により当該食品の成分に係る規格として、その物質の量の限度が定められたものに限る。
注6 魚介類若しくは鯨又はこれらの加工品を原材料として用いる場合に限る。
注7 法第7条第1項の規定により使用の方法が定められたものに限る。
注8 魚介類又はその加工品を原材料として用いる場合に限る。
注9 法第7条第1項の規定により食肉の成分に係る規格として、その物質(その物質が化学的に変化して生成した物質を含む。)の量の限度が定められたものに限る。
注10 原材料として用いる食品について、法第7条第1項の規定により当該食品の成分に係る規格として、その物質(その物質が化学的に変化して生成した物質を含む。)の量の限度が定められたものに限る。
  食品衛生法で定められた食品以外の食品でも、衛生上安全な食品の製造法としてHACCPは確実な手法であり、これを理解することが不可欠になってきた。HACCPは自分で実施でき、比較的費用のかからないシステムとして、さらに普及していくものと思われる。将来的にはISO9000シリーズとの整合化も図られる。

[総合衛生管理製造過程承認]実施状況
  平成11年12月28日現在、厚生省の承認を受けている企業数は次の通りとなっている。

 

乳及び乳製品 163社 294施設 716件
食肉製品 50 82 160
魚肉練り製品 9 12 16
容器包装加圧加熱殺菌食品 6 6 7

 
HACCP関連ホームページ紹介
http://www.mhw.go.jp/index.html (厚生省)
http://vm.cfsan.fda.gov/~lrd/haccp.html(米国FDA)
http://www.tokyo-eiken.go.jp/shokuhin/topics/haccp/haccp.html(東京都立衛生研究所)