LECTURE

食品包装基礎講座

ダイオキシンと包装フイルム

 
CONTENTS ダイオキシンとは
ダイオキシンの発生源と法規制
ダイオキシンと包装材料の関係
 

 
ダイオキシンとは
 有機塩素化合物のポリ塩化ジベンゾオキシンとポリ塩化ジベンゾフランを「ダイオキシン類」と総称し、一般にダイオキシンと呼んでいる。ダイオキシンは、塩素のつく位置や数により多くの種類があり、毒性も異なる。中でも、下図の2,3,7,8の部分に塩素(Cl)がくっついた、2・3・7・8テトラクロロジベンゾパラダイオキシン(2・3・7・8TCDD)は人類が作り出した最強の毒物といわれ、その毒性はサリンの2倍、青酸カリの1000倍とも10,000倍とも言われている。これら毒性の強いダイオキシンは、微量でも、発ガン性、生殖毒性、催奇形性、その他の障害が報告されている。
 
ポリ塩化ジベンゾオキシン     ポリ塩化ジベンゾフラン
PCDD(75種類)          PCDF(135種類)
  [ダイオキシンの化学構造]
 
ダイオキシンは、
①水に溶けず、有機溶媒に溶けやすい。
②常温では無色の固体である。
③低塩素化物(三塩素化物まで)は比較的揮発性で、塩素数が増すにつれて不揮発性となる。
などの性質を持っている。
ダイオキシンは本来自然界にはない物質で、時間が経っても分解しない。焼却炉などから排出されたダイオキシンは土壌や河川に降りて蓄積し、農産物や魚介類に入り込む。ダイオキシン摂取の98%は経口摂取で、主に食事から人体に取り込まれるところはPCBとおなじである。体内では脂肪などにたまり、一定量を超えると健康に影響が出てくる。地下水にも浸入し、生活そのものが脅かされることになる。
 ダイオキシンが一般に注目され出したのは、ベトナム戦争の時に使用された枯葉剤からである。この中に副生成物として微量のダイオキシンが含まれていたために、その後ガンの多発や多くの奇形児が生まれる原因になった。

ダイオキシンの発生源と法規制
 今年2月にWHOによって、強い急性毒性を持ち、さらに「発ガン性」があると明確化されたダイオキシンは、都市ゴミ焼却、有害廃棄物焼却、医療廃棄物焼却、製鉄・鉄鋼製造工程、製紙工場の化学パルプ漂白工程などから排出され、日本ではその8~9割がゴミ焼却場から発生している。埋め立て地の少ない日本では、ゴミの焼却比率が高く、先進国の大型焼却炉の7割が日本に集中している。
 厚生省が4月に発表した全国のゴミ焼却炉のダイオキシン発生調査では、既設焼却炉の基準(1立方メートル当たり80ナノグラム)を大巾に越えるところが多いという結果が発表されている。
 環境庁が6月にまとめた昨年の大都市での大気中濃度は平均1立方メートル当り1.02ピコグラム(ピコグラムは1兆分の1グラム)で、海外の都市部と比べると10倍も高い。しかもこの数値は、94年度の測定結果(0.37ピコグラム)に比べて2.8倍になっている。ダイオキシンによる環境汚染は確実に進んでいるのである。
 焼却によってダイオキシンが発生するためには、塩素+炭素源+触媒が必要で、塩素供給源としては、建築材、室内装飾品、日用品、水道管、電線被覆材などの塩ビ系樹脂、塩ビ系包装材、Kコートフイルム、ハロゲン難燃剤、農薬、殺虫剤、防腐剤、食塩を含む食品など無数といってもいいくらい存在する。炭素源も一般生ゴミなどの有機物、その他ほとんどの物質に豊富に存在し、触媒は、銅イオンなど、微量の金属イオンがあればよい。これらが空気中で250~400℃で不完全燃焼したときにもっとも多く発生しやすい。したがって、燃焼温度が低く不完全燃焼しやすい焼却炉、焼却開始時と終了時、排ガス冷却時などに発生しやすい。
 そこで厚生省では焼却炉について、次のような燃焼ガイドラインを示している。
・原則として連続炉とする。
・完全燃焼、滞留時間は2秒以上とする。
・2次吹き込みなどによる炉内混合を行う。
・燃焼温度は850℃以上(900℃以上の維持が 望ましい)。
・集塵器入り口温度200℃以下(ダイオキシンの 再合成防止)
・活性炭排ガス吸着設備の設置
 廃棄物の焼却に伴って発生するダイオキシン類の排出抑制を進める廃棄物処理法施行令と大気汚染防止法施行令を改正する政令が8月29日に公布された(12月1日施行)。排ガス中のダイオキシン濃度に係る新しい基準で、最も厳しい新設・処理能力4トン/時以上の場合、 0.1ナノグラム/m3が求められることになり、構造基準などでは廃棄物の定量供給、800℃以上での燃焼、 200℃以下への排ガス急冷などが定められた。

 
ダイオキシンと包装材料の関係
 包装材料の中でダイオキシン生成の条件となる塩素を含んでいる樹脂の代表はポリ塩化ビニル(PVC)とポリ塩化ビニリデン(PVDC)である。包装材料としてのPVC、PVDCは主として次の用途に利用されている。
・小売店で使用されているストレッチフイルム(ラップフイルム)---包装機械適性、復元性、密着等の性能に優れているためPVC製が多い。家庭用ラップもPVCのものがある。
・軟質ポリ塩化ビニルフイルム---非常にソフト感のある透明性に優れたフイルム(シート)で、可塑剤を多く含んでいるため食品にはあまり利用されないが、雑貨、日用品、おもちゃの包装には多い。
・硬質のポリ塩化ビニルシート---トレイ、容器、ケース等に成型され、非常に多く使用されている。
・収縮フイルム---PETボトルのラベル・キャップシールなどは収縮塩ビが多い。ハム・ソーセージ、包装豆腐などのロケット包装の材質はPVDCが多い。
・家庭用のポリ塩化ビニリデン製ラップフイルム---クレラップ、サランラップはPVDCである。耐油性、耐熱性
 保香性に優れている。
・KOP、KPET、KON、OV等のKコートフイルム---フイルムの片面または両面にPVDCを薄く(2~4 μ)コートしたものがKコートフイルムで、防湿性、ガス遮断性、保香性などに優れたフイルムとなる。何にでもコ ートでき、防湿包装、ガス充填包装、脱酸素剤封入包装などに非常に多く使用されている。
 このようにPVC、PVDCは包装材料として重要な役割を果たしているが、ダイオキシン発生の塩素供給源として 悪者視されるようになり、これを排除しようという動きが強くなってきた。
 スーパーなど大型小売店では取扱商品に使用されている塩素含有包装材料のリストアップを作成したり、また、ストレッチフイルムの材質変更も始まっている。また日本生活協同組合連合会では、1998年1月から、包装材料に塩素を含む場合は「この包材は燃やすと塩素系ガスが発生します。」という表示を行い、消費者のごみの廃棄に際して注意を促すという方針を決定している。
 一方塩ビ業界では、塩ビ以外に塩素源はいくらでもあり、ダイオキシン発生のための塩素は生ゴミからでも供給されるので、塩ビをなくしても発生量は変わらないとしている。塩ビは安価で、建材からラップフイルムまで幅広く使用できる優れた樹脂である。燃焼しなければダイオキシンの発生源になることもなく、回収再利用の技術とシステムが確立すれば共存できるとして、正確な情報発信に努めている。厚生省のダイオキシン発生抑制ガイドラインでも塩ビについては触れていない。まだよく分からないのが実情である。