LECTURE

食品包装基礎講座

メタロセンポリエチレン

はじめに
   ポリエチレンの歴史は長く、技術的に大きな変革点がいくつかある。1933年に発見された高圧・高温法(数千気圧、200℃)によるポリエチレンは、1953年に発見されたチーグラー触媒を利用することによって低圧・低温(数気圧、70℃)で製造できるようになった。改良されたチーグラー・ナッタ触媒を用いたポリエチレンの工業化は1957年、日本での工業化は1962年である。次はLLDPEの登場である。1977年には米国で気相重合法により工業化されている。初めてLLDPE(C6のウルトゼックス)を使用したときは、その高い性能に驚いたものである。シール強度、耐衝撃性、ホットタック性などはサーリン(アイオノマーポリエチレン)を越えるものであった。今の低密度ポリエチレンがLLDPEに置き換わったのも当然のことである。いよいよメタロセンポリエチレンの登場となる。メタロセンポリエチレンが実際に利用されるようになってから5年ぐらいであるが、着実にLLDPEからの置き換えが進んでいる。では、このメタロセンポリマーとはどんなポリエチレンなのか。その特徴・用途について紹介する。

メタロセンポリエチレンとは

   メタロセンポリエチレンとはメタロセン触媒(カミンスキー触媒 ※1用語説明の項参照)を使用して重合したポリマーのことで、L-LDPEの1種である。
 このメタロセン触媒で重合したPEは下記のような特徴を持っている。
・図1~4に示したように、側鎖の分岐が少なく、分子量、コモノマーの分布が均一である

 

   

図1.チーグラー触媒使用   図2.メタロセン触媒使用

 

    

  図3.分子量分布      図4.結晶性分布

・低分子量成分やべたつき成分が少ない
・成分溶出やポリエチレン臭が少ない
・図4のように、結晶サイズがそろっているので、透明性がよく、超低密度の樹脂を製造できる
・ラメラが小さくタイ分子が大きいので、低融点、耐衝撃性に優れている
・主鎖の均一性と側鎖の分岐度を調整しやすいので、低温から汎用まで、ユーザーのニーズに合わせた樹脂のコントロールが可能である

メタロセンポリエチレンフイルムの特徴

 メタロセンポリエチレン樹脂で製造したフイルムの特徴を列挙すると次のようになる。
○ブロッキングしにくい
○すべり性がよく、ブロッキング防止パウダーを使用しなくてもよい(ノンパウダー、※2)
○ポリエチレン臭が少ない
○食品への溶出成分が少ない
○EVA10~15%並の超低温ヒートシール性フイルムが製造できる
 

 
○LLDPEと同等のシール強度である
○耐寒性、耐衝撃性に優れている
○ホットタック性に優れている (※3)
 


○夾雑物シール性がよい
○揉みに対する耐ピンホール性が良い
○添加剤が少なくてよいので透明性に優れたフイルムの製造が可能である.特にインフレでは透明性がよい
○耐圧強度・耐熱性がある
○薄肉化、不良率低下によるコストダウンが可能
○自動包装の高速化による生産性アップが可能
 なお、メタロセンポリエチレンフイルムの製膜法にはインフレとTダイとがあり、それぞれ特徴がある。ここでは代表としてタマポリ(インフレ)、トーセロ(Tダイ)、ダイセル(Tダイ)のメタロセンフイルムを表にまとめた。
表.メタロセンポリエチレンフイルムの例
メーカー 商品名 商品記号 厚み(μm) 特徴 備考
タマポリ SEシリーズ SE625L 30-150 腰あり、MDPEに近い インフレ
    SE620M 30-60 汎用タイプ
    SE620L 30-150 すべり性がよく、ローパウダー
    SE620N 30-150 ノンパウダータイプ
    SE605M 30-60 超低温シールタイプ
トーセロ TUX VCS 30-60 超低温シールタイプ Tダイ多層
    TCS 25-130 低温シールタイプ
    FCS 25-150 汎用タイプ
    MCS 25-150 汎用エコノミータイプ
ダイセル セネシLL DL14 30-50 超低温シールタイプ Tダイ
    DL12 30-60 汎用タイプ

メタロセンポリエチレンフイルムの用途
   このメタロセンポリエチレンの用途としては、
・液体スープ等の高速充填包装
・ゼリー、めんつゆ等のホット充填
・わさび、カラシ、ジャム等のペースト状食品
・畜肉、ハム・ソーセージ等の深絞り用途
・粉末調味料、粉末スープ、コーヒー、紅茶
・入浴剤、サニタリー用品、化粧品、冷凍食品
・セメント、米等の重量物包装
・バッグインボックス(BIB)
・突起物のある機械部品、建築用具
などがある。
 このほか、医療用、医薬品用としても有望である。現在は低温シール性に特徴をもたせたグレードが主流となっているが、将来的には多機能なフイルムの開発が進み、低臭で耐衝撃性に優れた、レトルトが可能なメタロセンポリマーも期待されている。

(用語の説明)
※1 メタロセン触媒(カミンスキー触媒)
 メタロセン触媒は1980年にドイツのカミンスキー(Kaminsky)教授らによって発見された。二塩化ジルコノセンとメチルアルミノキサンを組み合わせたもので、エチレンに対して高い重合活性を示し、さらに活性点が均一(シングルサイト触媒 Single Site Catalysts--SSC)であるという特徴を持つ。これに対して、従来の触媒はマルチサイト触媒(Multi Site Catalysts--MSC)と呼ばれる。SSCは分子量分布が狭く、各分子のコモノマー含量がほぼ等しく、これによって良好な透明性、低温ヒートシール性をもたらす。PE、PP、PSなどで応用が進められているが、現在本格的に工業化されているのはPEだけである。
 



※2 ノンパウダー
   すべり性を付与するためにフイルム面に散布するのがブロッキング防止パウダーで、成分は食品衛生上問題がないデンプン系である。このパウダーを使用しなくても加工、使用ができるフイルムをノンパウダーフイルムという。

※3 ホットタック性
 溶融時の粘度が大きく、シール直後でも強度があるため、充填直後の内容物による底抜け、ガス充填のガス圧によるシール部剥離などが防止できる。